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第二章 それは意志であり運命である3

【第二章 それは意志であり運命である】3

「解った」
ライアはゆっくりとまばたきする。やけに静かに、長く感じられる一瞬。
「お前の父親には恩がある。ティヘナ族として、受けた恩義には報いよう。だが私のひとつ返事で答えられることではないのだ。……3日、待って欲しい」
ライアは難しい表情に薄く笑みを浮かべて、そう云った。セイは感嘆の声を漏らしそうになるのをこらえる。おそるおそるロトスの表情をうかがうと、彼も安堵に口許を緩ませていた。
「ああ。考えてもらえてありがたい。……父さんに、会ったことがあるんだな」
記憶を慈しむように、ロトスは眼を細めた。
「ああ。あの頃私はまだ9つだったが……命に代えても我らを守ってくれた。感謝している」
ロトスは、そうか、と短く頷くだけだった。
「長老会に話を通してくる。返事ができるまでは此処に滞在してもらおう。ジン、案内しろ」
そうライアが目配せすると、ジンは無言で頷き3人をふり向いた。その視線はライアよりも、訝しげな表情を含んでいるように見えた。
「こっちだ」
「……頼むぜ」
ロトスは壇上のライアの金と銀の瞳に視線を合わせ、それからジンに続いて足を進めた。


窓から覗く満月の下。床に並べられた寝具の上で、セイは上体だけ起こし、同じようにして胡坐を掻いているロトスに話しかけた。
「あの、ロトスさん」
ロトスの向こうにはシーディがいつも結っている髪をほどいて横になっている。背中しか見えないがきっと眠ってはいないはずだった。
「おぅ、なんだ」
「ロトスさんがあの有名な剣士ロディの息子だったなんて、あの、初めて聞いたんですけど。俺」
ああ、とロトスは曖昧に笑った。彩るように虫や蛙の声が奏でられていた。
「知らなかったか。まぁべつに自慢することでもないし隠してるわけでもないぜ」
ロトスがあまりにあっけらかんとした態度で云うので、セイはなんとなく拍子抜けした気分になった。
ランゼ軍の剣士ロディといえば、レディアス国にとっては反乱者であるにもかかわらず、その卓越した剣術が高く評価されている人物だった。史実によれば、ランゼの策にはめられ少数無勢で国軍に囲まれることとなり、その剣術をもってしても命を落とした、はずだ。しかしロトスの言葉を信じれば、ランゼはティヘナ族を守るために、きっとロディも不利を承知でティヘナ族とランゼのために少数無勢で立ち向かったのだろう。
「そう、ですか……。なんか見る目、変わります」
「いや、それは失礼じゃないか?」
ロトスは苦笑いしたが、セイの眼にはもう映っていなかった。セイはシーディの後姿を見ながら、この人まですごい人だったらどうしよう、という念に駆られていた。
確かに傭兵団の者たちは自分のことを多くは語らない。シーディだって例外なくそのひとりだった。同じ部隊に所属し、熱烈に尊敬しているけれども、知っているのは彼が北の自治群の出身で酒場のユイとは同郷の友人で、自治群の自衛兵団に長く所属していたらしい、ということくらいだった。そしてそれ以上に知らなくてもいいことも確かだ。
知れば知るほど情が移る。誰かがそう云っていたのをセイは思い出していた。
傭兵といえども命を危険に曝す身だ。実際に亡くなった兵士がいるのをセイは知っていたが、あまり知らない者だったので哀しみも喪失感もなかった。セイはまだ、近しい人を亡くすことがどんなものなのか知らない。もし、と浮かべる余計な想像をふりきって毛布を引き上げた。
「おやすみなさいっ」
マイペースな奴だ、と小さく笑うロトスの声が聞こえた。


夜だというのに蒸し暑い熱気に耐えかねて、シーディは寝床を抜け出した。
宛がわれた室を離れて、さほど遠くない池を訪れてみたが暑さは変わらない。余計に蛙の鳴き声煩く響くだけだった。それでも、ほとりに腰をおろして水面を眺めた。
「眠れないか」
聞き覚えあるよく通る低い声に、シーディは首だけでふり返った。
背が高くて肩幅が広い、闇の中では表情もよく見て取れない、褐色の肌。一族を纏め上げる、気鋭な若き女戦士。その威厳と風格に、シーディは遠く北の故郷の、自衛兵団の長を思い浮かべた。
「ああ、暑いな」
ふん、と彼女は鼻で笑う。そしてそのまま同じようにシーディの傍に腰を下ろした。
「お前らの長は悠々と寝ていたぞ」
彼女は部屋をのぞきに来たのかもしれない。出てくる前の、ロトスの寝相を思い出してシーディはすこし笑った。
「あいつはいつもだ」
云いながら、シーディは隣に視線をやった。
なめらかな褐色の肌は、未だ不思議に映る。あまり日焼けもせず、白い肌のままの自分とはまるで違う。持たないものであるから、とても神秘的なのだ、と解釈する。
「……おかしいか。こんな肌なのは」
視線に気づいたライアが嘲笑うかのような声を混じらせて云った。シーディは首をふる。
「きれいだなと、思った」
そう云うと、ははは、と彼女は高らかに笑った。
「そういうのは軽々と云うものじゃない」
率直な感想を述べたのを咎められて、シーディは困ったように笑った。視線を水面に移す。緩やかに揺れ、波打つ水鏡は満月を映していた。いつのときも、変わらず見届け続ける物云わぬ月。
「お前らの中に挙兵に反対する者はいないのか」
隣から響いた低い声に、シーディはふり向かなかった。
「俺たちだけでは勝負は解りきっているから、まだはっきりは訊いていないが幹部ではいないはずだ。俺たちはたくさんの街が壊れていくのを見てきたからな」
地面に生える草ごと掌を握り締める。ぶつぶつと、草が地面を引っ張って千切られる感触が掌に残った。
そうか、とライアは短く相槌を打っただけだった。生まれた沈黙を埋めるように、蛙の声がいやに響く。
「お前は、何のために戦う。どうして、命を翳して戦おうとする?」
ライアの放った、その問いはシーディの胸の深いところを打った。うまく理由を見つけようとすればすぐには言葉にできなかった。
幼い頃から自衛兵団の兵士として生きてきた。けれどそれは理由にできない、きっとライアには見破られる繕いだった。
自衛兵団を、故郷を捨てて飛び出したのは。
想いを巡らすシーディの視線の先には煌々と輝く満月があった。満月には人の本能を掻き乱し、惑わす力があるという。それが真実であるなら、言葉を声に載せたのは満月の所為にできるだろう。
「……生き永らえたい理由がない、から」
不意に強く吹いたぬるい風が水面の月を歪に崩した。



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Date:2010/01/09
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Thema:自作小説(ファンタジー)
Janre:小説・文学

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