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□ 黎明のレクイエム □

第二章 それは意志であり運命である5

【第二章 それは意志であり運命である】5


窓から吹き抜ける風に、ランゼは眼を細めた。黒い癖毛が風に踊る。
色素の薄い空は、希望の儚さを表すかのようだと思った。
ランゼはふり向かず、後ろに立つ男に云った。
「ロディ。頼みがある……最後の、だ」
その声は戦場を駆ける、勇ましい声のままだった。
「はい、ランゼ」
応える赤毛の、赤茶の瞳の男の声もまた、迷いのない落ち着いた声だった。
「……お前の家族は、ノルディスに住んでいるのだったな」
「……はい、妻と、息子です」
ロディにはその背の向こう側で、ランゼが微笑んでいるように思えた。もし無事にすべてが終わったら、彼に逢わせたいと思った。叶わぬ夢だと、知っていても。
「ノルディスから、助け出せ。そして、ティヘナを、援けに行って欲しい。もう私は、なにひとつ守れない」
「ランゼ……」
やり取りを聞いていた、小柄な褐色の肌の女性は黙ったまま、金の睫毛を震わせていた。
「お前なら、できるだろう。できる限りの手勢を率いて、包囲をくぐれ」
「……解りました」
ロディは静かに、頷いた。ふり向かないままの、主とも、友とも慕う男の背中は獣のような強さにあふれていた。たった独りでも孤高に立ち向かう、狼のような。
「だが家族とともに逃げても、私は恨まん。私は結局お前からも、奪うだけだった…」
「……俺は、ランゼ、あなたについたことを誇りに思います。俺にとっても、正義は、あなただ。ランゼ」
ロディはその後姿を真っ直ぐに見た。その背に従うのが自分の運命であるのだと、想う心に迷いはなかった。そう云って静かに室を出たあと、ロディはその扉の前を離れられなかった。どこかで、刻が進まぬように繋ぎ止めておきたかった。
「私の所為ですね……あなたに出逢わなければよかった」
押し殺した、ランゼの妻・イルマの声が耳に届いてロディはそこを離れた。こんなときにも美しい、鳥の囁くような声だった。
「お前に出逢えたから、私は幸福に幕を閉じられるのだ」
去りゆくロディの背を追いかけるのは、ランゼの優しい声だった。


その日の空は厭味なほどに晴れ渡っていた。
「シーア。これを」
ロディは皺だらけの封筒を差し出した。それには丁寧な地図が添えられている。それと、ティヘナ族との友好の証に与えられたという、煌びやかな装飾の金の短剣。
シーアは震えそうな手で、それを受け取った。
「……本当に、行かれるのですね」
返された笑顔は太陽のように明るかった。万物を照らし出す、希望のような光。
「ああ」
その表情をしっかりと脳に刻んで、シーアはその手紙を懐にしまった。
「必ず、助け出してみせます。この手紙をお渡しします」
「ああ、頼んだぞ。それが、俺があいつらに伝えられる、最……」
「だから……」
シーアは押し殺した声で主の言葉を遮った。ロディはすこし驚いたように動きを止めた。
「だから、戦争のほとぼりが冷めたら、紹介してください。あなたの口から、ご家族のことを」
シーアもロディも、知っていた。それが儚い希望であるということを。きっと逢えることはない。もしもロディが生き残れたとしても、ランゼの落城後には捕まって処刑される。もしくは長い間、逃げ続けなくてはならない。
それでも信じていたかった。
「……ああ、そうだな。自慢の妻と、息子だ」
ロディは愛おしそうに、眼を細めた。


すべてを焼き尽くす焔のような茜空。
罪であるはずの正義も、正義であるはずの罪も、うやむやに焼き尽くす熱。最後に残るのはただの煤。それでも最期を彩るのに相応しい、鮮烈な緋の幕。
人形たちが踊り狂い、肉体を滅ぼした、激動の舞台の終焉。
男は、窓の向こうのその情景を脳裏に焼きつけながら妻と呼ぶ愛しい女を抱き締めた。
よく磨かれた刀剣の身がその夕焼けを映し緋く染まっていた。
せめて、現世を離れても繋がっていられるよう。
男は、胸に抱き締めた女の背を深く、緋の剣で貫いた。



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覇王戦争回想。
あのひとは未だ謎の多いあのひとです。
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Date:2010/01/12
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Thema:自作小説(ファンタジー)
Janre:小説・文学

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