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□ 黎明のレクイエム □

第二章 それは意志であり運命である8



【第二章 それは意志であり運命である】8




生温い風が吹いて、池の水面を揺らしていた。ほんのすこし満月を通り過ぎたくらいの月が、歪に揺らぐ。
畔に腰掛けた彼は、すこしだけふり向いて見上げてくる。夜闇の中では銀色に輝く長い髪が、肩をするりと滑り落ちた。
「眠れないのか。珍しいな」
云われてロトスは小さく渇いた笑い声をたて、シーディの横に腰を下ろした。
「さすがに身体が鈍って眠くねぇよ。よく寝られるな、セイの奴」
それにはシーディも淡く笑う。
「もうすこし訓練をきつくしようか」
それもいいな、と軽い調子で返したロトスは、こっそりとシーディの表情を窺い見た。自衛兵団の頃の話をいつもよりは饒舌に話した彼の表情が、不安定に揺れていた気がしたからだった。
精巧な銅像のように取り澄まされた横顔からはなにも読み取れず、視線を外す。
「……父親は、この地で亡くなったんだろう」
静かにそう云ったシーディの言葉をぼやかすように蛙の声が不規則なリズムで響いていた。
「ああ」
短く応えれば、シーディはそれ以上訊かなかった。
国軍に仕えていた父に最後に逢ったのは、覇王戦争が始まる更に半年ほど前だった。休暇で帰省した父に剣の稽古をつけてもらった。その街も、家も、もうない。母も病気で亡くしたあとは、寄りかかる処もない天涯孤独の身。
けれどそれを恨めしく思ったり、寂しく思うこともいまはない。少なくとも自分を慕い支えてくれる仲間が、いつも傍にいる。
「あの様子じゃきれいに埋葬されてるかも知れないな。よかった」
間を外れて呟いたロトスの言葉に、シーディは微かに頷いた。その髪を強く吹いた風が攫い、躍らせる。
彼が6歳で自衛兵団に入団し覇王戦争の頃も戦場に立っていたことを、ロトスはずっと前に知らされていた。それは本人の口からではなく、自衛兵団に身を寄せていたときに周りの兵士から聞いた噂だった。
6歳の頃に妹とともに団長の許に引き取られたそうだが、彼らが親子のように接しているのをロトスは見たことがなかった。そこにはどこまでも強い主従関係があり、彼らは結局は部下と上官でしかないように見えた。
彼が8歳で参加した覇王戦争のとき、敵兵を手にかけたことはシーディ自身が云っていた。
初めてひとを手にかけたときの感覚を、ロトスもはっきりと憶えている。もうそれを思い出そうとはしないが、ぼやけた父との想い出よりも鮮明に描けるはずだった。それもいまではもう、同じようには感じられないが。
揺れる水面をなんとなく眺めているロトスを、シーディがふり向いたのを横眼で感じた。ロトスがふり向くと、その瞳は伏せがちにおもむろに逸らされる。
「何のために戦うのか、訊かれた。あの女族長に」
「へぇ。……なんて、答えたんだ」
ロトスの脳裏に、焼きついて離れない言葉がこだましていた。蒸し暑さをいやに鬱陶しく感じる。
シーディは無視を決め込んで、いつもと変わらない落ち着いた声音で続けた。
「なんて答える、お前なら。命を翳して、戦う理由」
ロトスは深く息を吸い込みながら、煌々と輝く月を見上げた。
「理不尽に奪われるのが嫌だった。奪われていくのを、みていられなかった、から、かな」
強く、優しかった父。生まれ育った故郷。慣れ親しんだ友人たち。すべて失った。
放浪の旅の途中で、奪われ失って哀しみに暮れるひとの姿をいくつも眼にした。
立ち向かい刃を向けることが、救うだけではないことは解っていた。自ら奪うのだと、いうことも。それでも黙ってみて見ぬふりはできなかった。理不尽に奪われていくのを、阻みたかった。正義と、云えなくても。
「それが、奪うことになっても?」
「奪っても」
ロトスはシーディの問いに間髪いれずに答えた。信じることが揺らげば、立ち行かなくなる。
「……後悔、してるか」
俺に、ついてきたことを。
ロトスはシーディの表情を覗き見ようと身を乗り出したが、それとなく顔を逸らされてその感情は感じとれぬままになった。彼は、首をふる。
「……ここにいなきゃ、救われなかった」
それは消え入りそうな声だった。
シーディの長い髪が風に揺れる。出逢った頃は短かった。重ねた刻(とき)の哀しさをロトスは知っている。
ロトスは彼の肩に手をやり、軽く揺すった。
「奪ってるなんて思うな。覇王ランゼだって、敗戦していくつもの命を奪ったが、奴らのおかげで地方の征圧は収まったんだ。そうやって救われた命だってある。救うため、なんだ」
「……そうだな」
シーディは肩に手をやり、ロトスの手を退けながら頷いた。
「少なくとも俺はそんな弱音を吐いてられない」
唇を引き結んだその表情は凛として逞しく、映った。ロトスは陽炎のようでも浮かんだ安堵を噛み締めた。一向に湧き上がらない眠気にため息を吐きながら、頬を凪ぐ生温い風に身を任せた。


空っぽになったふたつの寝具を恨めしげに見、セイはため息を吐いた。一方はきれいに捲られ、もう一方は乱雑に散らかっている。
今日はロトスさんもいないのか。
呟きは脳の中でこだまして消える。
セイは傭兵団の中で恒例行事になりつつあるロトスとシーディの手合わせの様子を思い出していた。十中八九ロトスの勝利で締めくくられるが、大抵の場合シーディが投げ出す格好になるのは決まった展開である。しかしそのことを、第一部隊の上官であるイリスが、殺し合うまで本当に決着はつけられない、と云っていたのを憶えていた。二人はそれだけ互角に強い、ということを。
そしてシーディは微妙なところで手加減するのがとても巧い。傭兵団の入団試験でセイを担当したのがシーディだったが、悔しいくらいに優勢にさせられて簡単にひっくり返された。ロトスとの手合わせで彼が負けてみせられるのは、きっとそのためだ。
道理で、か。
わずかな興奮とため息が混ざって渦巻く。
仮眠中のシーディに近寄ったとき眠っていると思ったのに思わず云った独り言を笑われたのも。6歳の頃から、つまり15年は軍隊に在籍していた、見かけによらず生粋の軍人だということで納得がいく。
そしてそのシーディと互角に渡り合うロトスもとてつもない実力の持ち主であるということになる。
はぁ、と短く強いため息を吐き出す。
「俺も、いつか……」
英雄になれるくらい活躍したい。故郷で希望の星になれるくらいに。
想いは睡魔に蕩けていった。


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番外編をほそぼそ執筆中。
いちばん下のねこちゃんが秘密の扉です。
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