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第三章 行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る

【第三章 行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る】1

「よく戻られました」
四階建てに造られた砦の三階、見晴らしの良い一室が、幹部で話し合いをするときなどに用いられる室(へや)となっている。
砦に戻ってすぐさまそこに呼ばれたロトスとシーディ、そしてジンを、穏やかに微笑むシーアが迎えた。
同盟は成功だ、ということは門でつかまえた伝令が先に告げている。
「あなたはティヘナの…」
シーアは微笑を湛えたまま、視線を上向かせてジンを真っ直ぐと見た。ジンは無表情を貼りつけたまま、わずかに頷く。
「族長附きの親衛の頭をしている。ジン、と申す」
「そうですか。この度は、感謝しています。私はこの傭兵団の長をしています。シーアです」
シーアはそう云って恭しく礼をする。薄い笑みを貼りつけたシーアと、無表情を貫くジン。相容れぬ空気がぴんと張り、同じ空間を共有するロトスとシーディを不快にさせる。
「我がティヘナの族長を含む3分の1の兵力がこちらに向かっている。ともに国軍に立ち向かう所存だ」
ジンは対等な態度を崩さない。その低く告げる声音に、シーアも一切の感情を表さない。
「そうですか、族長自ら…」
思案するシーアに、ジンは眉根をぴくりと戦慄かせた。
「それはありがたい」
シーアはそう告げて、穏やかに微笑んだ。
食えない男だ、とジンは思う。その場にいたロトスとシーディも同じ思いだった。よく解らない、掴めないひとだ、と思う。
どろりとした空気が流れている。
「兵士たちには話をしてあります……協力を申し立てているということを。それとティヘナの方々には東側の兵舎を用意してあります。厩も空けてあります。族長と皆さんが到着されましたら…挙兵のための集いを開きましょう」
「…解った」
一瞬、しんとした沈黙が訪れる。相容れない緊張感は緩むことがない。
「皆さんが到着するまでは、おふたりと行動を共にするといいでしょう」
シーアがちらりと、シーディとロトスに視線を向けた。先に反応したのはシーディのほうだ。
「案内しようか」
ジンのほうを向くと、シーディでもすこし見上げる格好となる。見下ろす灰色の瞳がひとつまばたきをして、頷く。
「頼む」
シーディはもう一度シーアに視線を向けた。シーアは微笑んで頷く。
「お願いします」
シーディは頷くと、じゃあ、失礼します、と告げてジンに目配せし、室の扉に手をかけた。
取り残された格好になったロトスは、閉まる扉を見送ったあと、シーアに向き直った。
「ご苦労さまでした。すんなりとはいかなかったでしょう?」
シーアは至極穏やかに、ロトスに訊ねた。先程までのどろりとした空気が一変し、軽くなっている。
「まあ……でもシーアさんの云うとおりに、あの剣をみせたらすんなりでした。長老会?のほうがすこし渋っていたようで……2、3日待たされましたけど」
ロトスが答えると、シーアは悪戯を成功させた子供じみた、満足げな微笑を浮かべた。
「なるほど。だからあのような…族長自身がこちらに来るようなことになったのですね」
シーアはいつも笑っているので、どれが本当の笑みでどれが作り笑いなのか解らない。幼い頃逢ったときは、そんな印象ではなかったのではないか、とロトスはふと思った。それにはあまり気を留めず、口を開く。
「本人たちも、解っているようです」
シーアはわずかに眼を細めて頷き、穏やかに弁解するように応えた。
「いまの族長は女ですので…長老会はよく思っていなかったと思います。ティヘナというのは、民族思想がかたくのこっているなかで、男尊女卑の考えがまだ抜けきらないのですよ。男は自治群の外にはあまり出ませんが、女は外に出稼ぎにいったりすることもある。だからランゼもティヘナの女性を妻に娶ることができたのですが……それで長老会は、都合よく気に入らない女族長を外に追いやることができたと……飽くまで私の憶測ですが、ね」
ロトスはライアの、開き直ったような表情を思い出す。一度は事実に打ちのめされ、けれどそれを受け入れ、決意した、そんな姿だった。
「強い女です。あの、ライアというのは」
「…そうなのでしょう」
頼もしいですよ、とシーアは眼を細めた。
そういえば、とロトスは思いついて訊ねる。
「シーアさんも、あの短剣を持っているんですよね?」
昔は見上げた彼の姿も、いまは自分の視線の方が上にある。ロトスは時の流れの重さを噛み締めながら、微笑の表情に一瞬影を落としたシーアを見遣った。
「……持っていますよ」
シーアは徐に手を腰袋に持っていき、金の装飾の煌びやかな短剣を晒した。
初めて他人の持つそれを眼にして、ロトスは思わず昂揚した。古い事実を繋ぐ、かたい想いを知る証拠ともいえそうな存在が確かにそこに在る。
「確か10人程がこの短剣を受け取る予定でした。亡くなったり、寝返ったりして、結局受け取ったのは5人だけになりましたが。残りがどうなったかは私は知りません」
「そう、ですか……」
いつも微笑で固められた鉄面皮が、いまはすこし悲痛に歪んだ気がしてロトスはそれ以上を訊くのを躊躇った。代わりにほかのことを口に出してみる。
「シーアさんは…国軍に仕えていたときからの、父さんの部下なんですよね?……いまの国王を、知っているんでしょう」
シーアは静かに頷いた。その面は微笑でない、無表情。
「…ロディ、ランゼと同じ階級の将校でした。親しくはなかったですが…よく知っています。仮にも先輩になりますから、指導を受けたこともあります。彼は国軍では有名人でした。なにせ王子ですから……
ランゼはティヘナ族の妻をもつことで噂を立てられ目をつけられていましたが、あのひとは宮廷に来ていた踊り子を見初めて妻にしました。王子だから手出しされなかったものの…いい噂でなかったのは確かですよ。
身分だとか出身だとか…そういうものでしか評価区別できないのは、昔はティヘナも国も、同じだったのでしょうね」
潔癖を表すように、シーアの眉が顰められた。
シーア・ワグナーと云うのが彼の本名だ。苗字は貴族の証。彼はそれを嫌ってシーア、とだけ名乗っていた。その通りなのだろう、彼は身分だとか出身だとか、そんなもので線引きすることを忌み嫌っている。
「…憎らしい男ですか。国王は、シーアさんにとって」
ロトスの半ば唐突な問いに、シーアは顰めた眉をそのままで、ただひやりとした視線でロトスに問い返す。
「…なにを、訊きたいのですか?」
ロトスは取り消したいような想いに駆られながらも、おそるおそる口を開いた。訊ねているのは自分なのに、責められているような圧迫感。年齢を重ねた雰囲気独特の支配感。
「これから、反乱軍として旗揚げするってことは、本当に、敵対しあうことだから。命を翳して…殺しあうことだから。俺は、知った人とそうなったことは、ないので。シーアさんは…」
つらくないのだろうか。
そう続けることはできなかった。
複雑な心境に違いない。ただそれでも、憎しみがあるのならば、やり過ごせるかも知れない、と思った。
「私の望みは…ランゼやロディが願ったのと同じように、国の中枢という腐った根を抜いて、この大地を生き返らせることにあるのです……そのためなら、なにも、厭いません」
向けられる緋い瞳がまっすぐにロトスを射る。静かに燃える焔のようにそこにこめられる熱情。
「もしも国につくのならば、あなたでも殺せます」
その燃える緋のなかに、一瞬描かれる冷徹。ロトスはわずかに悪寒を感じる。
けれどシーアはすぐにまた柔和に微笑んで、ロトスに背を向けると窓の外に瞳を向けた。
「この17年…初めの数年は身を隠していましたが、しばらくすればその必要もなくなり…やがてあの戦いは覇王戦争という名前を持って、過去の出来事として扱われるようになりました。一度はすべてのことを忘れて、このまま現実を受け流して暮らそうかと考えました。…しかし、できなかった…そしてまたあの頃と同じように、いやそれ以上に、治安は悪くなり小都市征圧が始まりました。私は……」
ロトスは相槌をうたず、ただその背中をみつめる。
その背中が見てきた世界をただ感じ取ろうとする。
「覇王戦争で生き残った。本来ならなかったはずの命なんです、それならば…あのひとたちの遺志を継いで生きることで、生き残っていることの理由にできる。そう思って、足がかりに傭兵団を築いたんです」
初めて聞かされた、その想いを戸惑いながらも受け入れ理解しようとする。
なぜ、どうして、をいままであまり訊くべきでないと思っていた。
それは相手への思いやりというよりは―――知ってしまうのが怖かったからだ。
理由には、必ず負の部分が存在する。
「そう云うと今回の挙兵も利己的に思われるかもしれませんが……傭兵として赴くなかで、皆現実を目の当たりにしています。国軍の残酷をその瞳でみて、反旗を翻す決意はできていると…思っています」
シーアの声音は穏やかで力強い。
冷ややかに燃える焔、熱をもった氷、彼は相反するそれだ。
ロトスは彼に応えるつもりで声を絞り出した。
「俺も旅のなかで、幾度も国軍の暴挙や壊された街を見ました。だから傭兵団に誘われたときも、いずれ反乱軍にすると聞かされたときも、迷ったことはなかった。…母さんは病気だけど、父さんも、友人も、故郷も、俺は全部失くした。大切なものを失って哀しむひとの姿を、見た。もうそんなふうに理不尽に奪われていくのを…見ているのは嫌だ、見過ごせない」
自分自身の戦う理由。ずっとずっと燻ぶってきて、やっと、かたちになったそれ。
「それに俺も…父さんの遺志を継ぎたいと、思ってるんです」
いまほど、父の存在を強くはっきり感じたことはない、そう思うくらいに、父の偉大さがみえる。
そしてシーアと同じように、この運命に似た筋書きに逆らうことができないと、本能が蠢いている。
「…頼もしいですね」
シーアはふり向いて、微笑んだ。




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第3章スタートしました。
謎の男シーアさんがすこしヴェールを…
シーアさんに喋らせたらすこし1話が長くなりました。
歳をとると話が長く… ちなみにシーアさんは48歳です。
シーディが空気を読める男でした。
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