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第三章 行く先も知らぬまま鳥たちは、いろとりどりの空を翔る 2

第三章【行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る】2


室を出て、砦の廊下を並んで歩く。
現在は集い場所、武器や食料の保管場所としてしか殆ど機能していない砦内部では、昼間は特に人に出逢うことは少ない。
「…ここは覇王ランゼの砦だそうだな」
ジンがぽつりと云う。
シーディは道の先に視線を向けたままで、頷いた。
「ああ」
ティヘナ領地から此処まで、ともに行動してきたがジンはかなり口数が少ない。
シーディは饒舌ではないが無口でもない、強いて云うなら物静かな方なのでふたりでいるとしんとした空間になることが多い。
互いにそれが苦痛でないのでぽつりぽつりとした会話が続けられる。
「…此処は、国軍の眼はかかっていないのか?」
「興味がないんだろう。この辺一帯は国にも、自治群にも属さない」
国の怠慢だ、とシーディは思う。国が眼をかけないところがあるから、犯罪も背徳もそこから生まれる。それが自分たちであるのだから、それは幸いなことなのかもしれないが。
「あの、シーアという男…お前は信頼しているのか」
「…してるよ」
「…どんな男だ。俺には得体の知れない不気味な男にしか見えない」
シーディは先刻のふたりの殺伐とした空気を思い出した。得体の知れない、というのは的確だとシーディも思う。あまり彼のことを知ろうと思ったことがないし、彼自身も語ったことはない。最低限のこと以外は。その最低限を口にする。
「……お前らも知ってるロディの、腹心の部下だったそうだ。ともに覇王戦争を戦って…狙われたノルディスからロトスと母親を助け出した。それで本人も難を逃れたそうだ」
「…生き残りがいたのか」
ぽつりとジンが云って、それっきり沈黙が訪れる。
ティヘナの思想と自分の感情とで天秤にかけているのだろうか、と、やはり横に視線は向けないまま考える。
ティヘナ民族は、恩義に篤い。だからティヘナを守ろうとしたランゼ、ロディの腹心であれば庇護信頼に値する。それに反して彼自身はシーアのことを素直には受け入れがたいと感じている。
彼らは、縛られている。
きっと解っていて、縛られるしかないのだろう。
シーディはそのことを考えるのをやめて、口を開いた。
「……自分だけが生き残ったら、どんな気分だろうな」
できることなら想像もしたくないことだ。それを経験している人が傍にいることは、現実がいかに残酷であるかを物語る。
「…俺は自分だけ生き残るくらいなら、自害する」
ジンは低く云った。
「…それはティヘナの意思か」
「俺の意志だ」
呻るように云い放たれたそれ。従属と自我に揺れる彼の答えだ。
そうか、と相槌だけを打って、シーディはその話を打ち切る。ジンはシーディの意見を仰ぐようなことはしない。
扉を開けて、外へと抜ける。薄暗い砦の中から、まだ昼下がりの陽光の下へと晒される。
シーディは眩しさにわずかに眼を細め、東の兵舎へと足を進める。冷やりとした空気が、ティヘナのほうとは大違いだと、蒸し暑さを思い出した。
「…終わったらティヘナに戻るのか」
何気なく訊く。
「お前にはこの先の終わりを想像できるのか」
返ってきた冷めた声音に、シーディは自嘲の笑みを唇に浮かべた。
「……そうだな。できない」
この先どうなるかなんて理想も描けない。生きているのか、死んでいるのか。
希望を持つよりは、現実を受け入れて消化していくのがいい。そうすれば裏切られることはない、とシーディは思っている。
ロトスもセイも、希望をみている、と思う。それを非難も否定もするつもりは毛頭ないが、シーアは希望よりも現実を受け入れ、意志で押し進むひとだ。少なくともそれはシーディにとって、支持に値する。
「……だが族長とともに在るつもりだ」
しばらくの沈黙のあと、ジンはそう云った。シーディは思わずその横顔をふり向いた。見上げる精悍な横顔は、真っ直ぐ前を向いて表情を変えない。
「…生きていれば、な」
シーディが視線を外して前に向き直ってから、呟くようにジンは続けた。
シーディは押し黙って視線を落とす。ざわざわと草木の風に揺れる音、鳥の鳴き声が沈黙をごまかした。すこしの後、声を吐き出す。
「…大切なのか」
言葉と言葉の間の沈黙が、やたら静かに思えた。
「……ああ」
ジンの確かな声が、そう告げた。揺るぎない、どっしりとした声音。
「…絶対に守り抜け」
シーディはぽつりと返す。ジンのほうは見ないまま。
「お前も、生き抜け」
どちらも哀しんではいけない。どちらも失われてはいけない。残された者の傷は深い。
シーディは一度ジンの視線を感じたが、気づかぬふりで見過ごした。傭兵団となってから増築されたばかりの、まだ新しい兵舎が眼の前に現れて指を差す。
「あれが、東棟だ。狭いけど個室と、洗面所とか浴室は各棟にあって…」




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ちなみにジンはライアや長老たちの前では「私」といぃますが、普段は一人称「俺」なのです。
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