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第三章 行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る3

【第三章 行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る】3


ロトスが室でくつろいでいると、シーディが戻ってきて、数日ジンと同室になると告げた。
ロトスは暫し呆然として、それから眉を顰めた。さらに口許を歪める。
「お前…そんなに俺と離れたかったのかよ」
「馬嘩、お前の寝相を考えての配慮だ」
シーディが不機嫌そうに眉を寄せため息を吐く。
「なっ……」
「お前の寝相の所為で眠れなくても悪いし、お前が寝相で恥かくのも可哀想だからな」
当然とばかりに云ってのけるシーディに、初めは心外に思ったロトスも、諦めと呆れがない交ぜになって開き直ることになる。
「……それは優しさか?嫌がらせか?」
「優しさ」
即答。
「嫌がらせだ…」
いじけてみせながら、内心ロトスは嬉々とする。冗談まじりに会話するこの時間は平和だ。
「砦も案内しきれたわけじゃないし、単独行動しないほうが身のためにもなるだろう。シーアさんが云ってただろ。いちいち待ち合わせたり迎えにいったりするのは面倒だからな」
「あー、まあな…」
それはまるで女か恋人同士みたいだ、と思ってロトスは笑いを噛み殺した。
そんなロトスを気にかけず、シーディは荷物をまとめはじめる。もとから今日戻ってきたばかりだし、そうでなくとも必要な荷物なんて多くない。すぐに準備を終えると、シーディはじゃあなと軽く云って、扉を閉めた。扉が閉まる寸前の一瞬、ロトスはシーディからまっすぐに視線を向けられたような気がしたが、その意味も解らず、あまりに一瞬で気の所為にとどめた。
あっという間に独り取り残されたかたちになって、ロトスはきちんと閉じられた扉を恨めしげに見、ひとつ盛大なため息を吐いた。



「それで寂しくなって、ここに来たってわけね」
洗い立てのグラスを拭きながら、ユイが呆れたように笑う。
傭兵団の酒場は今日も賑わって、がやがやと平和な雑音が広がっている。
「そういうわけじゃ……久々に本拠に帰ってきたんだ、息抜きしたいだろ。なぁ、ほら、云うことがあるだろ?」
すこしむきになって云い返すロトスに、ユイはまた呆れた笑みを返す。いつものことだ。
「…おかえり」
「おぅ、ただいま」
ロトスは嬉しそうににっと笑った。まるで子供のように無邪気な笑みだ、とユイは思う。彼はユイよりも3つ歳上だし、よくは知らないが複雑に背負ったものも在るだろうに、そんなものは無縁そうな表情をしている。
「…同盟が成功したって話、みんな云ってるわ。これで反乱軍として、旗揚げするんでしょう」
「ああ。……不安、か?」
麦酒を喉に流しながら、ロトスはちらりとユイの表情を覗き見る。
「不安よ」
はっきりと告げられた声音。ロトスは心臓をぎゅっと掴まれた心地になって眉を寄せた。
「すこしは、ね。でもいずれ、って解ってたわよ。どこにいたって危険な世の中だし…それを解ってついてきたの。後悔はしてないわ」
ロトスの心に浮かんだ感情をくみとったように、ユイは言葉を連ねた。
酒場で長年働いているのに相応しく、なんでもお見通しなんだな、とロトスは思う。いつかうっかり弱みでも見せてしまいそうだ、とも。
「本当か?」
「本当に」
ユイは笑って云い切るけれど、ロトスは眉を寄せた表情のままだ。またグラスに口をつけながら、ユイの表情を窺って感情の真偽を確かめている。
「…故郷のさ、親父さんとか。せめて手紙ぐらいは書いておけよ」
「…そうね。あっちは自衛兵団がいるから大丈夫…こっちだって、あのとき危ないところを助けてくれたあなたたちがいるんだもの、父さんも安心するでしょうよ」
「ああ…そうだといいけど」
ロトスはユイの云う『あのとき』を思い出す。
3年ほど前のことだ。
ユイがここに来る前、北自治群にいた頃。彼女は自衛兵団領のすぐ傍にある酒場を父親と共に切り盛りしていた。自衛兵団の傍にはいくつか酒場があったが、ロトスもシーディやほかの仲間と連れだってよくユイの店を訪れていた。シーディとユイが友人だったからロトスもユイと親しくなったのだった。
そんなある日、そのときの客に自衛兵団員はロトスとシーディのふたりだった日。突然店に入ってきた5人ほどの男たちがなにか云いがかりをつけて暴れだした。椅子や卓、灯りなどが派手に壊され、剣を振り回して強盗強姦まがいを始めようとしたところにロトスとシーディが立ち向かって彼らを倒し止めたのだった。
捕らえてみると彼らは国軍兵だった。後に聞けばそういった事件がほかの場所でも起こっていたらしい。国軍兵など国軍中枢部の者は、自治群では処罰できないという決まりがある。自治群は結局のところ、自立しているように見えて国に都合よく支配されているのだ。酒場を襲った国軍兵は罰することもできずに解放することになったが、ユイの酒場は被害も少なくいまでも続けられている。店主であるユイの父親は、その後ロトスとシーディにとても感謝しよくしてくれた。
お互いに『あのとき』を思い出していたのだろう、すこしの沈黙の後、ユイが頷いた。
「でも、ありがと。手紙は送っておくわ」
「おう」
にっと笑ってグラスに口をつけるロトスの、その表情にくすんだものをユイは見つける。
ロトスはいつもと変わらぬ動作で喉をごくりと鳴らせる。細められた瞳がゆっくりと戻っていく。
「…あのね、あなたが責任感じることじゃないのよ?」
麦酒は呑み込まれたのに、グラスはすぐに戻されずにわずかな動揺がその赤茶の瞳に浮かべられる。わずかの後、卓に置かれたグラスがごとんと音を立てた。
「自分が引き込んだんじゃないかとか、思ってるんでしょ」
ロトスは無言のまま眉を寄せる。ばつの悪そうな表情。
「私も、ほかの皆も…最後には自分の意志で決めて来たんだから。ね、辛気臭い顔をしない!」
一際に明るく云われた台詞。ロトスは素直に受け入れることができずに渋面になる。
「…俺、そんなに解りやすいのか」
ユイはくすっと笑う。
「いつも能天気みたいな表情(かお)してるから、考えごとしてると、解るのよ」
「…そりゃどうも」
さらりとひとを罵嘩にしてくるのは、地域性だろうか、と先程のシーディを思い出しつつ苦笑いする。
ふとユイのほうを見て視線が合うと、ユイはいたずらな瞳をして、口角を上げた。
「ロトスがちょっとでも元気ないとね、シーディが心配して、セイくんも気にして、教会のエマちゃんまで気を揉んで…大変なんだから。そういうときはここに呑みにきたらいいのよ。ね」
私が真っ先に気づいてあげる、そうでも云うようなユイの笑み。敵わないな、とロトスは改めて思った。
「ああ……そうだな。そうする」
ふと幸せだなと思う。始まりは独りだった。いまではかけがえのない仲間が傍にいることを実感する。
だからこそ、守るものが、守りたいものが増えた。それでも独りきりよりずっといい。
「なあ、ユイ」
唐突に呼ぶ。ユイは え?ときょとんとした眼差しをロトスに向けた。
「お前と酒を呑んでる時間が楽しくて、来て欲しいって云ったんだ」
まっすぐ瞳を見るのはどこか照れくさくて、すこし視線をずらして云うと、ユイがくすっと笑って頷く。
自分の生きる意味があるとするならば。戦う理由を探すのならば。そういう笑顔を守るためでもあるのだと、ロトスは心から思えた。





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シーディはよくロトスに若干冷たい態度をとってますが、
反抗期というか、照れというか、友情?の裏返しというか、なんです。要するに素直になれない、25歳にして笑
ユイが云うように、ロトスの変化に気がついて、冗談交じりだったり、あの視線…
ユイ姐さんは強い女。
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