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第三章 行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る4

【第三章 行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る】4



「おっ、セイじゃないか」
不意に呼ばれてセイがふり向くと、そこにはヴィンスが立っていた。
ヴィンスは同年代で仲良くしている兵士のひとりだ。大人びた雰囲気で、仲間うちではお兄さん的役割を担っていることが多い。
「いつ戻ったんだ、ロトスさんとかシーディさんは見かけたけどさ、お前の姿が全然見えないから…迷子か行き倒れか、って思ってたとこだよ」
穏やかに笑いながらヴィンスはセイをからかう。
「失礼な……」
セイはやや困って笑いながら返す。不本意にも、セイは『どこか危なっかしい存在』というのが仲間たちの認識のようなのだ。
「俺はティヘナ領に残って、ティヘナの軍隊と一緒にこっちに戻ってきたんだよ! 大役だろ?」
それでもそう云って胸を張ると、ヴィンスはすこし瞳を丸くしたあと、短く感嘆の息を漏らしてセイをまじまじと見た。
「お前ってほんと、度胸あるよな……第一部隊に志願したって聞いたときも驚いたもんだよ。命知らずというか…」
はは、とセイは朗らかに笑う。照れくさいような嬉しいようなこそばゆい気分。
「まぁ、それが取柄っていうか」
「そうかもな」
「…いや、失礼だから」
からかわれてもセイは思わず笑みになってしまう。穏やかな日常だ。
「とりあえず無事帰ってきてよかったよ、お疲れさん」
ヴィンスの茶色い瞳が細められる。セイは知っている。この穏やかな日常が長く続かないということを。ここは傭兵団だ。そしていずれ反乱軍になる。無事、という言葉にアクセントを置かれたヴィンスの台詞が響く。
「お、セイ!」
陽気な声が遮るように響いた。
「ダル」
「帰ってきたんだな」
うん、とセイは頷く。ダルもヴィンスと同じ仲間のひとりだ。ダルはいつも陽気で活き活きしている。
「さっきさぁ、俺、ティヘナの女族長とすれ違ったぜ! 迫力あるなぁ。シーディさんと、もっとでかいティヘナのひとと一緒だったけど…お前、話したりしてるんだろ」
「ああ、まあ…」
「こっちまで案内してきたらしいぞ」
「本当かよ……お前ってなんか、すごいよな」
「そんなことないって…」
云いながらも、セイは内心嬉しくなった。名声を得ること、活躍することがセイの夢だ。
「俺さ…」
改まって口を開いたセイにヴィンスとダルの視線が同時に向けられる。
「有名になるくらい活躍したいんだ。で、故郷の妹や母さんに、自慢にしてもらいたい」
セイはこそばゆく笑みを零した。父親は、賭博好きの酒好き女好きで、いつの間にかふらっといなくなってしまった。そんな父に代わって、自分が自慢の家族になりたいと願っている。
ぽろりと零したセイの本音に、ヴィンスとダルは柔らかく微笑んだ。
「お前なら、大丈夫だよ。その度胸があればさ」
「賛成。なんかいいな、そういう志があるっていうのは」
そう云われてセイの気分はぱあっと華やぐ。隠し切れない笑みをもらして、力強く頷く。
「…あとは、強くならなきゃな」
それと神様にも祈らなきゃいけないな、とセイは心の中で思う。今日のうちに教会に寄ろうと心に決める。セイは祈りと贖罪を信じている。祈りを捧げることで援けられ、剣を振りかざすことも罪の意識をもつことで赦されると信じているのだ。そういう兵士たちのために、砦の傍には教会が在る。
「俺たちも負けてられないなぁ」
そう笑ったダルが、セイの向こうに視線を遣って、あ、と呟いた。
つられてセイとヴィンスがふり向く。その視線が捕らえたのは、華やかなドレスを身に纏った女たちだ。
「やべ、いいもの見た…眼の保養だよな」
ダルがしみじみと呟く。その視線の先にあるのは、茜のドレスにたおやかな波打つ金髪、濃紺のドレスに真っ直ぐの銀髪、そして翡翠のドレスに短い黒髪の、談笑して歩く女3人。匂い立ちそうな妖艶な雰囲気を纏った彼女らは、砦下の街で営まれている娼婦館の娼婦だ。
「シィラさんに、アンナさん、リンさん…」
うっとりと眺めて呟くダルに、ヴィンスは呆れて肩を落とす。
「…お前、名前まで知ってるのか。むっつりめ」
「常識だよ! あの3人といえば娼婦館のトップだぜ。男の憧れ」
「そうなんだ…」
当然とばかりにこぶしを握って力説するダルに、セイは苦笑いする。
「でもさ」
百面相のようにしてダルの眉が顰められる。
「なんで娼婦なんだろ…………世の中がもっと、違ったら」
ダルがぽつりと呟いた。
一時の沈黙。
セイもヴィンスも答えられなかった。
それからなにごともなかったようにして、ダルはからりとした笑みを浮かべて、伸びをした。
「明日からシーディさんの鬼訓練だよなぁー、気合入れなきゃ」
ヴィンスは再び呆れた笑みをダルに向けている。けれどそれは優しい眼差し。それからセイに向き直った。
「じゃ、俺行くな。セイ、お前も明日からに備えてゆっくり休めよ」
「あ、宿舎? 俺も行くー」
やたら陽気にダルが続けた。
「じゃあなセイ」
ダルがひらひらと手をふる。セイもひらひらとふり返した。


からりとした晴天の下を優雅に、そして颯爽と歩く三色の髪が揺れている。
ときどきすれ違う兵士たちがそのたびちらっとふり返る、その視線を感じるたびにシィラはわずかな優越感とわずかな疎ましさをおぼえた。
この生き方に不満はない、けれどもやはり自分は奇異の瞳で見られる娼婦なのだ、と思い知らされる気がしてならない。
「なんだかいつもと様子が違うのね」
アンナが真っ直ぐの銀髪を耳にかけなおしながらぽつりと云う。
「最近急にここも人が増えたわ。そのうえ各地に隠し砦を持ってるとかで……わたしのなじみの客も泣く泣くそっちに行ったのよ」
そのアンナに、飄々と返すリン。紅をひいた真っ赤な唇が鮮やかにつりあがる。
「ああ、それが一緒に来ないかって駆け落ちを誘ってきたひと?」
「そう。でもわたしは誰かのものになったりしないし誰かひとりを決めることだってしない」
「そうねぇ。だって娼婦だもの」
間にはさまれる格好で、アンナとリンの会話をただ聞いていたシィラはそれには加わらずに、おもむろに周りに視線を向けた。
そしてぽつりと云う。
「変わり始めてるみたい」
アンナとリンがシィラをふり向く。シィラはまっすぐ前だけを見据えている。
「…そうね、契約の更新時期でもないのに砦に呼ばれるってことは」
リンは切れ長の瞳を細めて思案する。アンナは大きな瞳をまばたきさせて首を傾げる。
「…いいことかしら」
「悪いことかもね」
「きっと…どうでもいいことよ」
たおやかな金髪をかきあげ、シィラは凛として笑った。
「私たちには、平和も不穏も関係ないわ。そうでしょ」
からりとした晴天の下に三色の髪が揺れた。優雅に、そして颯爽と。





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この話に行き詰まり、プライベートも忙しく、気がついたら1ヶ月も経ってました…
その間にもアクセスが増えてることの喜ばしさ! ありがとうございます。
実は黎レクはもう6章くらいまで書けているのですが、新しくこの章を追加したことで行き詰っているという…
がんばれ私!!!

なんだか新キャラ量産の章です。
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