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□ 黎明のレクイエム □

第三章 行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る 6

第三章【行く先も知らぬまま鳥たちは、色とりどりの空を翔る】6

「我々は、勇敢なる戦士であるティヘナ族を同胞として迎え入れました」

「これまで傭兵として各地に赴くなかで、皆が見てきたでしょう。政府が…国軍がはたらく暴挙を。無為に奪われる平穏を、生命を」

「ティヘナも同じように政府に脅かされようとしているのです」

「これからも私たちは民のために、戦いましょう。ともに、手を結んで」

「大方、察しがついているとは思いますが」

「我々は政府に立ち向かいます。国中枢を、壊すのです」

「しかし」

「いまはまだ、そのときではありません」

「いずれ、この傭兵団を軍として立ち上げ、蜂起します。一気に攻め抜くのはそのときです。いまは地道に各地の兵力を味方につけ、砦を手に入れるのです」

「いずれ戦争が起こります」

「ついて来られない者は、此処を離れて構いません」

「ただ、どの場所でも繰り広げられる平穏の略奪を…止めなければこの国の腐敗は止まらないでしょう」


一礼して、シーアが壇上を降りた。
静まり返っていた空間に歓声とどよめきがなだれ込む。まるでしばらく息を止めていた後の、急いた呼吸のようだ、とシィラは思った。
人の波がざわざわと動き出すのに巻き込まれないよう、早足で踵を返す。それは一緒に来ていたアンナとリンも同じで、足並みを揃えて人の波から遠ざかった。今日の挙兵演説には傭兵団の兵士たちのほか、砦下の街で商業を営む者たちも集められている。
先日、砦に呼ばれたのはこのことについてだった。いずれ挙兵するということ、そしてティヘナ族が合流しているということを直々に説明された。それは砦の下で商売をする者への配慮だ。
「……どうだっていいわ」
思わず声に漏れた言葉にシィラはばつが悪く眉を顰めた。それを気に留める様子もなく、リンは飄々と云う。
「平和も不穏も関係ないけど、支配されるのだけはごめんだわ。あのひとの云ってることは一理あるわよね、政府や国軍の好き放題はそろそろ度が過ぎてる」
「そうね、だから私たちは安全なこの場所に来たの」
そう云うアンナの表情をシィラがちらりと窺い見ると、いつになく神妙だった。
でもね、国中枢を壊したって、平穏が守り通されたって、私たちは、このまま。変わることはない、きっと。
シィラは、今度は思い浮かんだ言葉を静かに呑み込んだ。付き合いの長いアンナとリンにも、みせたくない想いがある。
他愛ない話題でも口にしようとしたそのとき、シィラは視界に知った人影を見つけて足を止めた。
「シィラ?」
アンナがふり向く。大きく、潤んだような硝子玉の瞳がシィラを映し出した。
「ごめん、ちょっと先に戻ってて。用があるの」
その人影が人ごみに埋もれてしまう前にと、シィラはまた踵を返した。


「シーディ」
呼ばれて、シーディはおもむろにふり向いた。聞き覚えのある声なので然して驚くことはない。
「……シィラ。来てたのか」
訓練場に戻ろうとしていた足を止め、シーディは立ち止まってシィラと向き合う。シィラは紅をひいた唇で弧を描いて、艶やかにに笑った。
「ぜひ来てくれってシーア団長が云うものだからね」
「そうか。…ひとりで来たわけじゃないんだろ。他の奴は?」
「そうだけど…先に帰らせたわ」
悪びれもなく云うシィラに、シーディは諫めようとする言葉を遮られる。
「久しぶりね」
「……そう、だな」
シィラの掴めない態度はいつものことで、なんだかふりまわされるような感じもいつものことで、シーディはものわかりよく彼女につきあう。
「この前、ここに呼ばれて来たけどいなかったわよね。シーア団長とロトスから、今日みたいな話をされたわ」
「ああ…ティヘナに行って、帰ってきたところで。俺は一緒に来たティヘナの奴といたから」
「そう、ティヘナに……どうりでしばらく逢わないはずね。ご苦労さま」
労いの言葉に、シーディは軽く頭をふる。シィラは一呼吸のあと、真っ直ぐの瞳でシーディを見上げた。
「ここも、危険になるの」
「…わからないな」
シーディは曖昧に首をふるしかできなかった。安全だとは云い切れない、心配ないと云い切れない、それが弱さだと解っているのに、虚勢を張ることすらできないでいる。
シィラはそれを前にして、穏やかに微笑んだ。そして、その笑みがやがて悪戯っぽくなる。
「…守ってくれるんでしょ?」
シィラはからかうような声音で、試すような上目遣いでシーディを見る。シィラたちとロトスやシーディは傭兵団ができた頃からの縁で、冗談も言えるような友人づきあいだ。傭兵団がこの砦に居を構えたとき、別の街から移ってきたシィラたちが営業の許可を申し出た。そのときに居合わせ、年齢も近いので仲良くなったのだった。
「じゃあ勝手なことするな。いくら傭兵団の中でも、ひとりでいるなって云ってるだろ」
真剣に眉を顰めるシーディに、シィラはふふ、と笑った。シーディの真面目でやや不器用なところを、シィラは気に入っている。
「解ったわよ。もうしないから…」
彼らはシィラたちを、娼婦だという瞳でみていない。ただ普通の友人だと、女だと見ていてくれる気がして、シィラには居心地がよかった。
「落ち着いたら、またゆっくり呑みたいわ。ロトスも一緒に」
シィラはにこりと笑って云う。それに応えてシーディは淡く笑って頷いた。シィラの笑みが、嬉しそうに深まる。
「送っていくよ」
困ったような呆れたような、人のいい笑みをシーディは浮かべた。ちらりと暮れかけた太陽に瞳を向けて、まだ時間がある、と確認する。
「ありがとう」
シィラは眼を細めてそう云うと、娼婦の手つきで、シーディの腕を取った。
「……よせって」
あからさまに眉を寄せるシーディの頬に朱みが差したのをみつけて、シィラは可笑しくなって絡みつけた腕に力をこめた。
「いいじゃない……娼婦は噂が立つくらいのほうが、箔がつくのよ」
「あのな…」
腕を引き離すことができないと悟ったシーディは、眉を顰めたまま顔を背けた。それから、ほら、と諦めてシィラに先を促す。
シィラはくすくすと笑いながら、一時の平穏をしっかりと胸に刻んで、歩き出した。



「ジン、どんな気分だ」
ティヘナの兵に与えられた東棟、宛がわれた自室の寝台に腰掛けて、ライアは扉の傍で立ったままのジンを見遣った。
その真っ直ぐな金と銀の瞳に射られて、ジンは内心困惑する。それでも表情は鉄面皮の表情のままだ。
無言を貫くジンが困っているのだと気がついて、ライアは小さく笑った。
「ジン、私は……すこし興奮している」
ライアは挑戦的な瞳でジンをねめつけ、つりあがる口の端は獣のそれだ。野兎を狙う肉食獣の、ねじ伏せるような余裕じみた雰囲気。
「見放されたも同然で故郷を出た。思えば初めて、本当にティヘナから出たようなものだ。白い肌の者たちに囲まれて仲間だと呼ばれる。歓迎にも奇異の視線にも囲まれている。そしていつか国なんか潰してやると高らかに云う男の許にいるんだ。面白い…と思う私はやはりおかしいのだろうな」
眼を細めるライアに、ジンの鉄面皮が歪む。普段から愛想のない面が、不快に顰められる。
「本気で云っているのですか」
怒気を含んだような声音にライアは内心驚く。冷静沈着、慇懃で絶対服従。ここ数年のライアが知っている彼はそんな男だった。
「私たちは見放されたわけではありません。ティヘナの義として信頼され……昔の恩義に報いるために此処にいる。奇異でもないし蔑まれることもない」
「お前こそ本気で云っているのか」
ティヘナを出る前のことを思い出しライアは顔を歪める。あのとき彼は長老会の決断を苦く受け止めていたのではなかったか。
「私だってティヘナの誇りを失ってはいない。それでもずっと自惚れていられるほど罵嘩でもないんだ。お前は私に、きれいな道を歩かそうとしているだけだろう。…女だからか。私はどんなに薄汚れようとも、しがらみのない道を行く決心をしたというのに」
ライアの苛立った様子を感じつつも、ジンは折れない。ティヘナを出る前には、ライアはその誇りを高らかに語ってみせ、長老会の者たちにも強い態度をとってきた。それが緊張と疲労で揺らいできているのが解る、だからこそ。添え木になるべきなのだと心得ている。
「あなたは女だ。それ以前に誇り高きティヘナの族長だ。薄汚れる真似はさせない。どんな道を選ぼうとも、誇り高くなければいけない、美しくなければいけない。あなたを気高く生かせるために、俺はいるのです、族長」
それが親衛としての役目なのだと、ジンは云う。生まれたときから決まっていた、役目。
「……とんでもない男だな、お前は」
ライアは表情を変えないジンの面をまじまじと見上げる。
生まれたときから決まっていた、それを疎ましくも思う自分と、それを誇りだと云ってのけるような彼と。どちらが幸福なのだろうと見比べる。
「そんなんじゃあ、妻が娶れんぞ」
ライアが笑いながら云うと、ジンの眉が動き、眉間に皺が寄せられた。瞳には困ったような表情(いろ)。
「それで結構」
ふん、とライアは鼻で笑う。
「お前も…興奮しているようだな。なんだか変わった」
「……そうかも知れません」
「いいさ。ここはティヘナじゃないんだ、すこしくらい破目を外したって文句を云う奴はいない」
にやり、と。そう云うに似つかわしいライアの笑みに、ジンは狩られる小動物の気分が解るような気がした。おそろしいようで、思わず動きを止めるほど魅惑の視線。
「我らは誇り高きティヘナの戦士だ」
掠れた鋭い声がしんとした室に響く。
「…それだけあればいい。そういうことなんだろう?」
向けられる挑戦的な瞳に、ジンは唇を引き結んで頷いた。





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一応、3章終了しました!
一応、なのでいつか改稿するかもしれませんが…

そしていったいどこからみつけてもらえてるのか…カウンタが100をさしました!めでたい!
うっかり迷い込んでくれた方がたのしんでくれますよぅに!
そしてキリ番でプレゼントをして喜ばれるよぅなことになりますよぅに…!

3章みんな揺らいだりしてますね。なんからぶらぶしてるよぅにみえますね。
展開は進まないまま。しばらくこうです(え
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