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□ 黎明のレクイエム番外その他 □

茜空の下、風に踊らされる鳥たちは 

【茜空の下、風に踊らされる鳥たちは】 


「ここが北自治群の自衛兵団か」
ロトスは小さく呟いた。
眼の前には高く聳え立つ土壁。ロトスの背丈の二倍ほどはあるだろう。ほんのすこし中を窺い見られる柵状の格子扉の傍には窓があり、どうやら隣接した門番の詰所のようだ。
ロトスはまっすぐにそこに近寄ってみる。


昨夜のこと。
「お兄さん、旅の傭兵ってとこかい」
宿の女主人の問いにロトスは素直に頷いた。
「最近はそういうのが多くなったねぇ。物騒な証拠だわ」
大柄な女主人は短くため息をついて腕組みした。ロトスは返事のしようがなく、はは、と渇いた笑い声を立てた。自分に対して物騒といわれた気がしたからだ。
「でも、この辺じゃ仕事がないかも知れないよ」
女主人の笑みに、ロトスは眉を寄せた。
「なんでだ?」
「あれ、やっぱり気づいてないのかい。此処は、北自治群だよ。この標(しるし)、見ただろう?」
女主人が指差すのは宿帳の表紙の蒼の十字架。
ロトスは思い出す。そういえば此処に来るまでに見かけた店々の看板の横に、さりげなく在った。
「それ…北自治群だって標なのか」
なるほどな、とロトスは素直に感心する。ロトスは東の自治群の出身だったが、そこでは標をする習慣はない。
そして北自治群といえば、自衛兵団を有し、少年には従軍の義務があるほど中心的な機関としてはたらいているときいたことがある。
いままですこしも意識していなかったが、ロトスは急激に興味を持った。
「仕事がないって…自衛兵団がいるからか?」
女主人は大きく頷く。
「そうさ。覇王戦争の混乱からも自衛兵団に守られてるからね、ここは。信頼厚いさ」
自慢げにそう話して、女主人は突然あ、という表情をした。悪戯っ子が浮かべるような、閃いた笑みを浮かべる。
「あんた、自衛兵団に入団してみたら?」
ロトスは突然の提案にきょとんとする。
「そんなこと、できるのか」
女主人は大きく頷く。
「北自治群の人間でなくても契約入団できるのさ。入団試験で実力を試されて、認められれば即入団。寝床と食事が供給されて、満足な給料も貰える。いい話でしょう」
なんでも従軍期間を終えた者は自由な職に就けるが、そのまま自衛兵として雇われることもできるという。同じように、実力がある者は北自治群に忠誠を誓えば、自衛兵として雇われ高待遇を受けることができるのだという。



それは面白いな、と思ったが早いが夜が明けて、ロトスはいま此処に立っている。
単純に北自治群の象徴ともいえる自衛兵団に興味が湧いたのも理由のひとつだ。
詰所に近寄れば門番が気がついて眼を向ける。
警戒する厳しい瞳。
無理もない、体格のいい男が大剣を背負って立っているのだ。
苦笑しながらロトスは声をかけた。
「自衛兵団に入団を希望する者だ」
門番は一瞬瞳を丸くし、にやり、という表現が似合いそうな楽しげな笑みを浮かべた。
すぐさまそこにいたもうひとりにそれを伝え、そのもうひとりが詰所を出て何処かに向かったのが格子の向こうに見えた。
「少しお待ちください」
門番はそう云った。
退屈なのでロトスは話しかけてみる。
「入団試験があるんだろう? それって手合わせか」
「……はい」
面倒くさそうに答えるのは二十を過ぎた歳頃だろう青年だ。従軍期間は十から十五までの間と聞いているから、彼はその後雇われた兵士なのだろう。
「誰とやるんだ? 団長か?」
昨日、ロトスは宿の女主人には団長がどんな人なのか訊いてみた。女主人は困った後、獣みたいだ、と云っていた。実際のところあまり姿を現さないのだという。
「…いや、たぶん団長では…」
そこで先程のもうひとりの兵士が駆け戻ってきた。
結局続きを云うことなく、彼はどうぞ、と云って門を開けにまわった。


ざわざわと見物客が取り巻いている。
門番の笑みはそう云うことか、とロトスは納得する。
その取り巻きにはちゃっかりとその彼もいた。ほかに門番を代わったのだろうか、無防備すぎないかと変な心配をしかける。
その人だかりがすっと引いて道ができた。瞳を向けたロトスは思わず笑いそうになる。
獣だ。
ほかよりも頭ひとつ、ふたつ飛びぬけた長身。服越しにも強靭さが滲む鍛えられた肉体。浅黒い肌に、たてがみのようになびく黒い髪。鋭い黒の眼光。
言葉通り獣のようないでたちに笑いかけたあと、匂い立ちそうなその雰囲気に射竦みそうになる。
これが自衛兵団の長。
息を呑む。
「入団を志願するそうだな。名は」
眼の前に立った男は、呻るような低い声で云った。
「ロトスだ」
ロトスは短く敢然と、告げる。
背丈は高い方のロトスでも、見上げるかたちになる。
「ロトス、まずは力試しをしてもらおう」
悠然とその男は薄く笑った。ロトスは頷く。
「真剣での勝負だ。傷はつけても構わないが、殺すな。忠告はそれだけだ」
再度頷き、ロトスは剣を抜いた。身幅のある、分厚い剣だ。切れ味は悪いが、威力はある。
「シーディ」
呼ばれて彼の後ろから姿を現したのは、自衛兵団の制服をきっちりと着込んだ長身の男。
蒼みを帯びた銀の、短い髪が風に揺れる。北自治群のあたりは風が強い。
華奢な印象を受ける体躯。それを辿るともの憂げな表情を浮かべる面は色白で美しく整っている。その瞳の色は胡桃のそれだ。
ロトスはその姿を眺め緊張を緩めた。団長と見比べる所為もあるだろうが、それほどの実力者には見えなかった。もの憂げな表情は、不安な表情と解釈する。
「お前たちの手合わせを見させてもらう。好きに始めていいぞ」
団長の声を受けて唇を引き結んだロトスの前に、すっと手が伸ばされた。
グローブをはめたその手を握ると骨ばって薄い。近寄るとロトスよりも少し目線が上だった。
「よろしくな」
ロトスが云うと、シーディ、と呼ばれた彼はもの憂げな表情のまま、ああ、と頷いた。
すこし距離をとり、ロトスは剣を構える。
シーディも腰から細身の剣を抜く。あの剣なら叩き折れそうだ。そう思った刹那、吃と睨む視線に射られた。弾かれるように踏み出す。
真っ直ぐ切り出されたロトスの剣を、シーディは受けずにかわした。ふっと視界から外れる。速い。ロトスが振り下ろした重力に捕らわれている隙に狙いどころを定めるように一度距離をとる。
体勢を立て直す前に切りかかってくる彼の刃にぎりぎりのところで迎えうつ。その身体からと思えない力にロトスの腕に衝撃が走る。それでも細い剣がそれ以上勝つこともなく、勢いのないロトスの剣もそれを折るまではいかない。お互いの力をばねに、飛び退くようにまた距離をとる。
重力に捕らわれることを怖れるロトスの剣はシーディの剣を弾くことも狙えない。なにより彼は速い。すばやくかわして飛び込んではくるが、ぎりぎり追いついたロトスの防御を払うには、ロトスの方が力に勝る。
お互いの剣を絡ませて睨みあう、隙を狙う。
息が上がる。お互いの表情に余裕がない。汗が顎を伝って硬い地面に落ちる。
どれくらいの時間が経ったか解らなかった。
「そこまでだ」
低く呻る声。
距離を詰めようとしていたシーディの脚が止まる。
受ける覚悟をしたロトスも意識を声に向ける。
ロトスとシーディを含め、そこにいる全員が声の主を見た。その視線を受け、彼は悠然と笑う。
ロトスは次の言葉を期待しながらも、対峙するシーディをちらりと見た。
息を荒げながらも張りついた無表情。ただ視線が落とされる。
ロトスは自衛兵団長に視線を戻した。
「ロトス、合格としよう。お前を自衛兵団に迎え入れることを認める」
ざわつく声とため息は歓声か、非難かは判別つかなかった。
ただロトスは胸をなでおろす。
もう少し長引いていたら、『殺さない』という条件を破るところだったかも知れない。
お互いの微妙な手加減が勝敗を分けず互いに苛立ちを募らせていたのが解った。
「自衛兵団の掟についてはあとで説明させよう。是が非でも呑んで貰うようになる」
そう云って彼は、息を整えたロトスの許に歩みを進めると手を差し出した。
ロトスは遠慮がちに握手を交わした。無骨な分厚い手。なんだか畏れ多い。
「シーディ、お前の室(へや)は相部屋の相手がいなかっただろう。そこに案内してやれ」
「……はい」
きまりの悪い表情をしたシーディは小さく頷いた。
それを眺めながらロトスは手合わせの感覚を思い出す。流れそびれていた汗が背をすうっと伝った。
「あいつは自衛兵でいちばん強い。俺には敵わないが……な」
不敵な笑みを浮かべ、団長はロトスにだけ聞こえるくらいの声で云った。
「あいつは俺には手も足も出ない。心配ないだろうが変な気を起こしても無駄だ、憶えておけよ」
彼には逆らうことはできないという絶対的な脅し。ロトスは冷や汗の出る思いで渇いた笑みを漏らした。
一際強く吹いた風に眼を細める。
空は蒼い。
なかなか面白そうだ、とロトスは選んだ道を誇らしく思った。













自衛兵団にて、ロトスとシーディの出逢い、ロトス編。
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