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□ 黎明のレクイエム番外その他 □

蒼空の下、風に踊らされる鳥たちは

【蒼空の下、風に踊らされる鳥たちは】



「一、自衛兵団員は、如何なる場合も自衛兵団長の指示に従い、北自治群のために行動する。二、自衛兵団員は、自衛兵団の領地で寝食をともにし、訓練に……聞いてるか?」
欠伸の気配を感じて、シーディは隣の男をふり向いた。
生理的な涙を浮かべて曖昧に頷く彼に、ため息を吐く。それを受けて、彼はにっと笑ってごまかす。朗らか過ぎる笑顔を向けられて、シーディは困惑しながら視線を逸らした。
「……知らないからな」
ぱたんと掟の記された薄い書物を閉じると、シーディはそれを彼に押し付けた。
説明するよう団長に云われていたが、面倒だと思う心も働いて、諦めることにする。
「大丈夫、大丈夫…怒るなよ」
また笑顔を向けられて、シーディはふいと顔を逸らして腰かけた椅子から立ち上がった。
数時間前のできごとを思い出す。



訓練の合間の休憩中、空気が変わったからすぐに解った。
「シーディ」
それでもその低く呻るような声には背筋が伸びるような思いをさせられる。
シーディは声の主である、自衛兵団長をふり向いた。
幼い頃から何度見ても、獣のようだと思う風貌。
背が高いといわれる自分よりも、頭ひとつぶんは大きい。鍛え抜かれた強靭な身体、浅黒い肌、たてがみのような黒い髪、鋭い黒の眼光。恐怖さえ呼び起こしそうな絶対的な存在感。
腰掛けていたシーディはその姿を見上げ、立ち上がった。
悠然と立つ彼は、口許に笑みを湛えているようにも見えた。
「外部からの入団志願者だ。相手しろ」
「……はい」
シーディは頷いて、踵を返す彼の後ろに黙って従った。
北自治群の自衛兵団には、従軍義務のあと、正式に自衛兵として雇われた北自治群の出身者のほかに、外部から来て雇われている兵士もいる。彼らは入団試験と証して実力を確かめられた後、掟を守る契約を交わして自衛兵となる。その入団試験の手合わせを、いつからか団長はシーディにやらせるようになった。もうしばらくになる、はずだ。
『殺すな』、規則はそれだけの手合わせで、シーディはいまのところ負けたことはない。その手合わせの様子を見て団長は志願者の実力の判断をしているようだが、シーディは自分自身も評価されている気がして気が乗らなかった。
それでなくとも3、4日に一度は皆と同じ訓練のあとに団長直々の訓練、手合わせが行われている。
その特別が、自分が自衛兵のなかでいちばん強いとされているからなのか、義理の息子としてのことなのか、後継者としてつくりあげるためなのか、シーディには解らなかった。
ただまだ、彼には手も足も出ない。手合わせの度に惨敗させられるばかりだ。
だからどんなに強さを評価されても、もの足りなかった。
彼に、届くまでは。
前を歩く大きく逞しい背を見ながら、シーディは唇を噛み締めた。
広場に着けば、そこには話を聞きつけて見物に来た兵士たちが輪をつくっていた。団長が現れるなり、その前から人が消えて道になる。
その向こうに姿を現したのは、ややがっしりとした身体つき、シーディとそう背丈も年齢も変わらないくらいの青年だった。癖のある髪と瞳は明るい赤茶。ほんのすこし緊張した面持ちを浮かべる、人のよさそうな印象を受ける貌立ちの男だ。
「ロトスだ」
そう敢然と告げた。



シーディは自分の寝台に向かうとその上に乗り、壁に背を預けた。
手合わせは引き分けだった。
ロトスの繰り出す身幅のある分厚い剣は、力強く威力があった。速さではやや勝ったシーディも、ぎりぎりのところで防がれれば破ることができなかった。お互いに隙を探り続けて、『殺すな』、その制約のために勝敗をつけるまでのあと一歩を踏み出せなかった。殺し合うまで勝敗をつけられない、シーディにはそう思えた。
団長は手合わせのあと、いい兵士が入るな、と云った。普段は手合わせに感想を云ったりしない、喜んでいいのか歯痒い気分が残った。
掟の書を適当にめくっている彼に視線を遣る。
視線に気がついた彼が、顔を上げて瞳が合いそうになったところでシーディはあからさまに瞳を逸らした。
「なあ、自己紹介がまだだったよな」
話しかけられてシーディはもう一度ロトスを見る。
別にいらない、と云おうかと思って思い留まり、代わりに眉を寄せる。
ロトスは気にしていないようで、にっと朗らかな笑顔を向けた。
「ロトス、だ。歳はいま、24。東自治群の出身だがいまは傭兵をしながら旅をしてる。此処にはしばらく世話になろうかと思ってるから、よろしくな。シーディ」
そう云って向かいの寝台から乗り出して、手を伸ばされた。
その笑い顔にほだされてしまう、そう思った。
「……よろしく」
シーディも身を乗り出して、伸ばされた手に触れた。




身体を捻った反動に、蒼銀の髪の先をすべった汗の玉が宝石のごとく空に散る。
よけた、そう思ったはずなのに右の二の腕に熱が走った。切り裂かれた熱。
その勢いにつられて傾いだ身体に、容赦なく蹴りを入れられて、一瞬の後シーディは強く地面に身体を打ちつけた。土埃が舞う。細身の剣が手を離れる。
背骨が軋むような痛みにも耐えてすぐに起き上がったシーディの鼻先に、冷ややかに突きつけられる剣先。
それを辿れば冷酷な表情をした彼がいるはずで、それを直視する度胸はまだない。
「……すぐ起き上がれただけ進歩だったな」
吐き捨てるように云われ、鼻先の剣がどけられる。それは緋(あか)で濡れていた。
「…………」
それを拭わずに鞘に収められる、その動作を追いかける。
一際強く風が吹いて、汗を吸って重い上衣(うわぎ)が冷たく肌に張りついた。その右腕には、緋が広がっていく。
「今日は終わりだ」
そう告げた彼の、見下ろす眼差しにどんな感情がこもっているのかいつも解らない。
失望しているのか、哀れんでいるのか、そのどちらでも苦しい。解らなくていいのだ、と思う。
背を向ける彼に声をかけることなく、シーディはただ悔しさに唇を噛んだ。
そしてその姿が見えなくなるまで眼で追ったあと、傷を負った右腕に触れた。鮮やかに緋い血は止まりかけている。
シーディは地面に抛り出された剣を拾うと、できるだけ人気のない道を選んで兵宿舎の自室へと戻った。たまに人に出逢うこともあるが、そのときは皆一様に気がつかないふりで傷を負ったりしていても深く追求されることはない。
シーディの特別扱いは、自衛兵団では暗黙に認識されている。それをよく思わない者もいるし、受け入れている者も多い。
親子だから。
結局はそういう眼でみて結論づけられるのだろう。
そんなのは酷い、従軍義務で入団してきた、同い歳の親友はそう云って怒っていた。
ぼんやりとした記憶の片隅。
傷だらけで自衛兵団の門の前に立っていた。妹の手だけはしっかりと握り締めて。
自分の名前と妹の名前、年齢や、なにが好きでなにが苦手で、そういうこと以外は家族のことも、それまでどうしていたのかも、なにが起こったのかも憶えていなかった。
そのときいまよりも遥か大きく、立ちはだかった凛々しい獣。
彼は云った。俺のところに来ないか、と。
『俺の子になれ』
彼の真意は解らない。親子のような愛情を注がれたことはないからだ。『団長』、それ以外の呼び名で彼を呼んだことはない。
思い通りに後継者を育て上げるためだ、そんな噂が在ると聞かされたことがある。
俺の子になれ、と云ったときの彼の表情を思い出そうと記憶を巡らせる。
そうしながら自室の扉に手をかけた。痛みは鼓動のように同化している。
扉を開けると飛び込んできた赤茶色に、そうだった、と後悔する。
久しぶりに誰かと同室なのだ。寝台の上にぼんやりと座り、本を読んでいたらしい彼は、シーディに視線を向けるなり盛大に眉を寄せた。
「突然入るなよ……おいそれ、どうしたんだ」
「ごめん、忘れてた」
問いかけには答えずにシーディは真っ直ぐに自分用の机へ向かった。それぞれの机と寝台があるだけの簡素で狭い室内だ。独りでも広くないのにふたりいると息苦しい、と思う。
机の棚から脱脂綿や包帯、消毒酒を取り出す。応急処置なら手馴れたものだ。引き取られたときは記憶どおりなら6歳、もう15年は軍人をしている。寝台の上にそれらをばら撒いて、自らも腰掛けて傷口を露出させる。
質問を無視されたロトスは無言で寝台から降り、治療用具を探っているシーディの手を荒々しく掴んだ。
「……なに」
シーディは不機嫌に眉を寄せる。見上げたロトスの表情は構ってもらえずに拗ねた子供のそれのようだった。
「…貸せ。右利きだろ。やってやる」
「いらな…」
有無を云わさずロトスはシーディの手から脱脂綿を取り上げた。旅の傭兵だと云った彼は手際よく傷口を拭う。彼はそれ以上、傷のことも追求しない。シーディは諦めておとなしく治療されながら、視線を落とした。
「おせっかいは俺の特技なんだ」
笑いながらロトスは云う。
「……面倒な特技」
シーディは俯き気味のまま、淡く笑った。
新しく友人ができたことに、悪い気がしなかった。
顔を上げて窓の外に瞳を向ければ、風に樹の緑の葉が揺れて、そこから鳥たちが飛び立った。




自衛兵団にて、ロトスとシーディの出逢い、シーディ編。
ロトスの特技・おせっかいと、シーディの危なっかしい感じがうまいバランスなのです。
シーディ援けられてばっかだけど、
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