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□ 黎明のレクイエム □

第五章 歯車は咬み合わずとも、動き出す1

第五章 歯車は咬み合わずとも、動き出す1


煌びやかに装飾された王の居室の窓から、冬めいた陽射しが降り注いでいた。
その室の中央で、白金の睫毛に縁取られた特異な薄紫の瞳が紙面を滑る。
「いかが、いたしますか」
室の扉の傍には痩せぎすの中年の官僚が真っ直ぐと立っていて、気弱そうな声を上げる。彼が窺い見た先では、レディアス国を統治する帝王・アギレスが無表情のまま手にした新聞を折りたたんだ。同じほど年齢を重ねてはいるものの、帝王の気品と整った貌立ちがより若々しく思わせる。
「軍事についてはジャウーに任せている。興味がない」
たたんだ新聞を卓の端に追いやる動作に、襟足で束ねた緩やかな巻きぐせのある白金髪が物憂げに揺れた。
「……然様ですか。では、失礼いたします」
男がそそくさと去って行く気配を背に感じながら、アギレスはもう一度追いやった新聞に視線を遣る。
官僚が持ち込んだのは、地方の無名紙だった。その隅に書かれた短い記事を、男は指した。
“覇王の砦に居を構える若き傭兵団が拡大。ティヘナ族の姿も見られ、砦下の街も活性化している。新たな自治郡の誕生か。レディアス国はこれを見逃すのか、潰すのか。”
“此の傭兵団はいくつかの街の壊滅を救った。しかし、彼らが戦力をつけ国に反旗を翻せば、戦争の再来を招くのではないか。現状の維持と打破、どちらが幸福となるのか。”
つまりは反勢力となりそうな種を見逃すか潰すか、窺いに来たというわけだ。
17年前、戦争後に覇王の砦を厳しく管理せず放置したのは、僅かな同情の念からだった。
あの戦争の主犯格、ランゼ、ロディ、シーアはともに国軍で訓練を積んだいわば同僚だった。見知っていたし言葉を交わしたこともある。
ランゼは家系という後ろ盾のある自分とは違い、自力で30歳ほどの若さで幹部に上り詰めた能力のある男だった。
どうして彼らは反旗を翻したのか。叛乱を知ったときの失望にも似た感情を憶えている。
そして廊下で目撃した場面を今も忘れない。


ふたりの同階級の幹部がランゼに詰め寄っていた。
それでも、浅黒い肌に精悍な身体つき、冷徹めいた三白眼のランゼは余裕のあるふうに見えた。
「知ってるか、ランゼ」
嫌味に唇の端を吊り上げた男がねっとりとした口調で云う。
「今度の標的はティヘナ族だそうだ。お前にはできるのか?」
「せっかく上官に媚売って地位に着いたのになぁ。地位を守って女を捨てるか? 女を守って地位を捨てるか? 究極の選択だよなあ」
せせら笑う歳上の男たちに、ランゼは冷え切った視線を返していた。堂々とした出で立ちで。
くだらないとでもいうように押し黙るランゼに、男たちはさらに煽るような言葉を浴びせた。
「どうせ卑しい茶色い血なんて、華々しい地位には不相応だぜ。それとも、南の女は情熱的で病みつきになるか」
下卑た男の笑い声に、初めてランゼの表情が動いた。ぴくりと眉を顰める、それだけで総毛立つような殺気。
もう、やめておけ。遠眼に見ている自分でさえも気がついた危機感を、調子づいた男たちは感じないようだった。愚かに言葉を積み重ねる。
「なあ、どっちがい、」
その言葉は鈍い潰れた悲鳴に消された。冷たい床に滴る、鮮血。折り重なるように倒れるふたつの身体。
ランゼの手が握る剣を彩る緋。
冷え切った瞳をしたランゼと一瞬、瞳が合った気がした。
動ずることもなく、返り血を拭うこともせずその場を後にしたランゼの背中からずっと瞳が離せなかった。
しばらくしてアギレスは何処に通報するでもなく、静かにその場を離れた。


あの日からランゼは姿を消し、間もなくロディやシーアら数人の兵士が静かに国軍を去っていった。
彼らの行方がつかめぬままひと月後、後に云う覇王戦争が始まったのだ。
結末にはなにが待っているのか解らないものだ、としみじみとアギレスは想う。
あの男はきっと間違っていなかった。けれど今となっては、悪の覇王と呼ばれる男だ。
もしかしたら彼は、妻を愛していた、ただそれだけの想いのために、此処を去っていったのかもしれないと思った。
思いを巡らせていると、コンコンコン、と、軽く扉が叩かれた。返事を待たずに扉が開かれ、誰なのかすぐに気づきながらもアギレスはゆっくりふり向く。
「シェイ。どうした」
白金の髪、宝石のような薄紫の瞳。自分と全く同じいろどりをもった息子、シェイが閉めた扉に寄りかかるようにしてこちらに視線を送っている。
15という年齢ながらすこし華奢なつくりと、真っ直ぐ伸びる髪、精巧な人形のように整った容姿は、彼に流れるもうひとつの血が与えたものだ。
「階下も軍部もなんだか騒がしくなってる。なにかあった?」
「さあ……知らんな」
きっとあの傭兵団のことなのだろう、と思いつつ、余計なことは知らなくたって良い、とアギレスははぐらかしてみせて首を傾げた。
しかしシェイは納得いかないようで、あからさまに不機嫌に眉を寄せる。
「…じゃあ、覇王戦争が知りたい。僕が生まれる前のことで、父さまも参加した戦争なんでしょう」
「…なんだ、急だな」
「覇王戦争、って言葉を最近よく聞くんだ。きっと最近の様子に関わってる」
憤然とシェイが云う。我侭なところはきっと自分に似たのだ、と思いつつも、アギレスはその容姿を前にしてはつい甘くなってしまうのだった。
「…いいだろう。座りなさい」
そう云ってシェイに長椅子を指し示した。






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5章は国中枢、政府のおはなしです!
国王も、王子も美中年美少年です!国軍総帥は野獣系です!
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