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【第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か】2

【第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か】
第2話

「……………………」
言葉にならず、ただ目の前の状況を必死に受け入れる。
薄暗くてよく解らないが、華やかな貌立ちをして、唇に紅をひいている女性が安堵の表情でこちらを見ている。そして端麗で、どことなく無表情をした、肩幅や首筋でやっと男だと解る者。すこしうしろから、体格も、貌立ちも雄々しく凛々しい癖毛の男が関心の混じった瞳を向けてくる。
何が、起こっているのだろう。
ふと視線を落とした先に手首があって、鎖があって、手首の辺りが少し重くてまさしくそれは自分の所有するものであって、走馬灯のように情景が甦った。
天井の高い小屋の中で、することもないので眠りの世界に身を預けようとしていた。
子供の泣き叫ぶ声が聞こえた。
低い怒声が聞こえた。
女の半狂乱な声や、馬の足音。馬車の音。
見えない外の様子が怖くなって、真っ先に兄のことを案じた。
『要らない子』ではないから外にいる兄のこと。たったひとりだけ、自分の味方である愛しいひと。
けれど確かめるすべもなく、扉は開くこともなく、ただ美しいくらいに鮮やかな橙色の炎が現れた。
どんどん熱くなっても、苦しくなっても、心の底だけ冷たくて。
これが本当の絶望なのかと思った。
その先はもうなにも憶えていない。けれど、夢でも嘘でもないことは手首に絡まる鎖が証明している。
生きている。
あの扉は開いたのか。
自分は、援けられたのか。
なんとかそれを受け止めて理解して、もう一度視線を上げた。
「からだ…平気?」
女性の声が心配そうに訊いてくる。女性的で、甘ったるくない、芯のある優しい声。
すこし考えて、なにも感じ取ることができなかったので頷いた。
「そう、よかったわ」
と、優しい笑顔が向けられる。その傍で、癖毛の男も鼻を鳴らした。無表情の男も、よく見ればその瞳の奥に穏やかな色を覗かせている。
からからの喉を感じながら唇を開いた。
「……たすけて、くれた」
久しぶりに出す所為で時々かすれる声を他人のもののように聞きながら、ふと強くいなければいけない気がした。強さはひとつしか解らなかった。
「……のか?」
思いの外うまく話せる気がした。
彼らは少し驚いたような表情をしてみせたが、ああ、と癖毛の男が頷いた。
「俺は、ロトス。傭兵団、っていってわかるか? その一員だ。ここは、俺らの本拠地の砦」
ロトス、と名乗った癖毛の男は、違和感ない、太くて低い男らしい声をしていた。
「ユイよ」
「シーディだ」
彼もやはりそのままの、低いけれど、透き通るような声をしていた。
傭兵団、というのはなんとなく解った。本は、兄がいろいろと読ませてくれていたから。
「……ありがとう。私は、ランゼ」
一瞬、空気がぴんと張ったのを、ランゼは気づかなかった。

ランゼはその整った横顔を、なにを想うわけでもなく眺めていた。長い睫毛が規則的に上下するのをなんとなく追う。思わず息を潜めていることに気がついた。
カチャン、と唐突に音が響く。
「…開いた」
ぽつりと、低く呟く声。左手の重みがするりと抜ける。久々に軽くなった左手は、どこか違和感があった。思わず胸元に引き寄せる。
「ごめんな、時間がかかった」
シーディは少し眉根を寄せた。先ほどまで横から眺めていた瞳にまっすぐ見られて、ランゼは思わずどきっとした。
「あ、いや……ありがとう」
「どういたしまして」
彼の形の整った唇が弧を描いて、切れ長の瞳がすぅっと細められる。笑った、とランゼは心の中で呟いた。そう思ってから、自分もしばらく笑っていないことに気がつく。いつからだろう、そう考えて、兄の姿を思い出す。心臓をわしづかみにされるような胸の痛みにくらくらする。
「気分、悪いか」
心配そうに覗き込む胡桃色の瞳にぶつかる。ランゼは首をふったが、胸の奥には鉛のような冷たい重みが残ったままだった。
「とにかくゆっくり休んだらいい。なにか欲しいものがあったら、遠慮なく云っていい」
シーディがそう云い終わったか終わらないか、そのくらいでランゼは言葉を押し出した。
「戻りたい……街に、戻りたい」
思わずあふれた言葉だった。声に出してから、自由になった左手を握り締めていたことや、自分が情けない表情をしているだろうことに気がついた。
云った瞬間に、シーディがどんな表情をしていたかは解らない。
ただ、彼はすぐにやさしい表情をして、ああ、解ったと頷いた。




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Date:2009/12/31
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Thema:自作小説(ファンタジー)
Janre:小説・文学

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