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第五章 歯車は咬み合わずとも、動き出す2

【第五章 歯車は咬み合わずとも、動き出す】2




「国王」
室の扉を開けた国軍の兵士が、その場に跪いて告げた。
椅子に腰掛けたノルド、机をはさんでその前に立つアギレス、二対の薄紫の瞳がその兵士に向けられる。
「城内で兵士がふたり、亡くなりました」
「…疫病か?」
きびしく眉を寄せるノルドに、その兵士は神妙な表情で首をふる。
「…斬り殺されていました」
沈んだ声が、しんとした室内に染み入るように流れた。
ノルドは眉を寄せた表情のまま、まっすぐに兵士を見ている。まるで睨まれているかのような錯覚で、その兵士は射竦められて蒼褪めていく。
「ランゼの部隊から数名、姿がみえなくなっています。馬や、武器も…」
その声はわずかに震えている。兵士はもう二対の薄紫の瞳を見ようとはせず、俯きがちに事実を告げる。
「話によると、先日死亡した 、 の両幹部は日頃からランゼのことをよく思っていなかったそうです…たぶん、先日の犯人も…」
語尾が小さくなり、兵士は困惑げに言葉を濁す。
「…ランゼか」
「…ではないかと」
室に沈黙が流れる。窓の外や階下のざわめきが、不相応に軽々しくて滑稽なほどだ。
「……有能な兵士だと聞いていたが」
呟いたノルドの瞳は、屹と睨みつけるように鋭くその兵士を見た。直視こそしていないものの、その威圧感が伝わったのだろう、彼がわずかに身を引いた。それをアギレスは漠然と眺める。
「…ランゼとその部下たちを、探させます」
跪いたまま深く礼をして、兵士は足早に去っていった。


それから一月ほど、彼らの行方は掴めぬままだった。
ただの逃亡とみなし、捜索を諦めようとした矢先のこと。
当時、国軍は東農業地帯の武力征圧を試みていた。東農業地帯の中でも、西商業地帯、北自治群よりの端の集落、イクロスへの攻撃部隊を指揮したのがジャウー、二番手となりまとめたのがアギレスだった。
東農業地帯は南自治群、北自治群のように武力を備えていない。その気になれば征圧は容易いと考えられていた。
そのはずのイクロス攻撃で、後陣にかまえていたアギレスとジャウーの元に届いたのは予想していなかった報だった。
先陣から兵士が戻ってきた。大きく肩で息をし、興奮した朱い顔で、それでいて恐怖を見たような引き攣った表情。
「ジャウーさま、アギレスさまっ」
息も切れ切れに、ただならぬ様相で跪くのをジャウーは冷たい瞳で見下ろしていた。
「どうした」
「ランゼです!…ランゼがっ…現れて加勢しています…ロディもです!…かなり、苦しい状況、です…っ」
「…………ランゼか…」
ジャウーが険しく眉間に皺を刻んだ。ジャウーもアギレス同様、ランゼとはともに訓練を積んだ同僚だ。しかも、ジャウーとランゼはいつでも実力の一位、二位を争う相手同士だった。
ジャウーの舌打ちが緊張したテントに響いた。
「…撤退だ」
低く押し出された言葉。
はい、と兵士が震えた返事をして、後陣のテントを慌しく出て行った。
「あいつ…ついに姿を現したな。なんのつもりだ」
腕を組むジャウーの表情はまだ険しく歪められたままだった。


それを皮切りに、国軍の武力征圧の前にランゼたちはことごとく立ちはだかった。
武力征圧の拠点とする砦を次々と襲い、国軍を追い出していった。それが、後に『覇王』と呼ばれる所以にもなる。


度重なる衝突、敗戦で国軍兵士たちは疲弊していた。それはジャウーやアギレスをはじめとする幹部たちも同じだった。
劣勢ばかりではない、半年の月日を数えて、東農業地帯の集落、イクロス、リトは国軍の手に陥落した。巷に『覇王』、と呼ばれるようになったランゼたちも疲弊している。だがそれはお互いに同様で、安堵できることでもなかった。
その頃には国軍は全土への武力征圧を改め、標的を比較的力の弱い東農業地帯に絞った。そしてすべての因縁の素であるといえる、ティヘナ族の治める南自治群にも矛先を向けた。
最後に賭けた、全軍でのティヘナ、ノルディスへの攻撃を控えた数日前。アギレスは兵士たちの様子を窺いに兵舎を訪れていた。
医務室や訓練所を見回り、厩にさしかかった辺りで兵士たちが話しこんでいるのをみつけた。アギレスはその会話にそれとなく耳をそばだてる。そこにただならぬ雰囲気を感じてのことだったが、その勘は間違っていなかった。
「あいつ…セノアがいなくなった」
「救援部隊のセノア? 何処かに駆りだされてるんじゃなくてか?」
「そう…思ってたんだけど。もうしばらく、姿を見ない。…おかしくないか?」
「あいつ、非力だろ。どっかで野垂れ死んでるんじゃねえの」
「…だけど、もしも、もしも、さ……。…皆、おかしいと思ってるだろ。ランゼはいつも標的の街に現れる。…………偶然じゃ、ないとしたら、って考えたことあるか? 誰か…情報を流す奴がいるんだとしたら」
「…………まさかだろ」
兵士たちがどよめく。
下等兵にも切れる者がいるものだ、と思いながら、同じようにざわめく気持ちを抱えながらアギレスは彼らに近寄った。
「…本当か」
声をかけられて兵士たちは一様に引き攣った表情を浮かべる。
「救援部隊のセノア、だったな。ほかにいなくなった奴はいるか」
彼らは思案したあと、各々に弱く首をふった。


結局、救援部隊のセノアという兵士は見つからないままだった。覇王戦争の後も。
ただ、ランゼ軍はノルディス、ティヘナ侵攻にまたしても立ちはだかった。それがたぶん、答えなのだろう。
そして、仲間に裏切られたのは、国軍だけではなかった。





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あちらからみた、覇王戦争。
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