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□ 黎明のレクイエム □

第五章 歯車は咬み合わずとも、動き出す3

【第五章 歯車は咬み合わずとも、動き出す】3



「俺はランゼの下にいた。ロイ…ロイ・ワグナーです。ランゼを裏切って戻ってきた」
武器も持たず、両側に立つ兵士に拘束された無力な姿で、まだ少年の面影を残す男はそう云った。
自ら、ひとりで此処に来たと云う、ただその瞳は凛と真っ直ぐだった。なにも怖れてはいない瞳。
「信じるかどうかはあなたたち次第だ……ランゼの拠点は、西商業地帯南端の街から遠く外れた山中の砦にある。いま、そこに残っている勢力は少ない。ランゼは、妻とともに其処にいます」

国軍は、ロイを、信じた。



山麓にそびえ立つように在るランゼの砦を、国軍は取り囲んでいた。
ランゼが篭城してから、数日がたった夕刻だった。
燃えるような茜空が彩る、脳裏に焼きつくような情景の日だった。



窓辺に男の影が見えた。
そこから逞しい腕が伸ばされる。
その手は握った深紅の旗を、離した。
もがくようにはためいて落下したそれ。
敗北を認める、証だった。
「―――――――――突入だ!!!」
弾かれるようにして、猛々しく叫んだ、自分の声がやけに遠く聞こえた。
駆け上がった最上階のその室で、ランゼは絶命していた。
妻、イルマを殺して。
彼女を抱き、自らにも深く剣を突き刺していた。
覇王と呼ばれた男の、残酷で悲痛の最期だった。



時期を同じくして、ノルディスは国軍の手に陥落した。豊かな集落だったそこは、価値のない焼け野原と化した。
そして、ティヘナ侵攻は、ランゼ包囲に兵力を裂いたために双方苦戦を強いられていた。ランゼの落城の報を受けて互いに撤退することになったが、ティヘナの族長はかなりの手負いを負った。そしてランゼの腹心、剣士ロディは命を落とした。ティヘナ侵攻を指揮したジャウーは片眼を失った。
互いに半数以上が命を落とす、惨劇の幕引きとなったのだった。








「……ランゼ軍の人間はみんな、処刑したわけじゃないんだ」
不服とも云うような口調で、シェイは云った。歴史書より内側の話をしたというのに、開口一番の台詞がそれで、アギレスは息子に潜む狂気を見た気がして複雑な気分になった。
「…ああ。我々も、疲弊していたからな。死亡が確認できた者以外は、未だにどうなっているか解らない」
ランゼの裏切り、情報の漏洩、ロイの寝返り、そして全土を覆った戦渦。失われた命の多さ。覇王戦争は思いの外にレディアス国中枢に深い爪痕を残した。占い師の助言で、その年に生まれた赤子は処分したり手放したりするほどに、暗黒にとらえられた出来事だった。
「……覇王戦争はまだ、終わってないんだね」
ぽつりとシェイが云った、その言葉にアギレスはどきりとした。情けないと感じつつも、冷や汗の浮かぶ思いで脳(あたま)でその言葉を反芻する。
「覇王の砦、ティヘナ族、みんなが騒ぐわけがなんとなく解ったよ。…砦の傭兵団には、ランゼの仲間がいるのかも知れないね」
まだ少年の域を超えない息子は、ときに鋭いことを云う。自分より王の器が在る、とアギレスは再三思った。
「でも……覇王戦争のように、勝つのは中枢だ。……そうでしょ、父さま」
微笑を浮かべる、その様は懸念を抱くほど無垢で真っ直ぐで。心酔するように信じて疑わない、それを危うげだとアギレスは思った。それと同時に、この国の主という立場にありながら、『勝つのは中枢に決まっている』と胸を張れない自分をみつけて呆れた気持ちになった。
「……ねえ、どうするの」
悪戯めいた眼差しで、シェイはすこし身を乗り出すようにしてアギレスに問いかけた。
「…………軍事についてはジャウーに任せている」
アギレスは先程官僚に吐いたのと同じ台詞を、シェイに返す。
「……そう」
残念そうな色を秘めた、冷めた声音が漏れた。
「…戦争になったら」
ひやりとした声が、静かな室に響く。
「僕もこの腕を確かめてみたい。…いいでしょ、父さま」
さまざまな感情を抱きながらも、ここまで表情を変えなかったアギレスが、その言葉に眉をひそめ表情を歪めた。
「…戦争は訓練とは違う。お前のような年端もいかない者が出る幕ではない」
思いの外きつくなった声音にも、シェイは怯むことなく淡々と云い返す。
「…北自治群では。10歳から15歳までの間従軍して、その間に前線に出ることだってある。僕はもう十分な年齢でしょう。…心配しないで、父さま」
認めないとばかりに応えないアギレスから瞳を逸らして、シェイは陶酔するように、企むように、眼を細めた。
「ジャウーには…格好の獲物だろうね。ランゼの砦の、傭兵団か」
「…………」
アギレスは、眉を寄せこそするがそれ以上諫めることができなかった。








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息子に気圧されてる国王…。つぎの4話で5章は終わりにします。
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