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第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か3

【第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か】
第3話



明くる朝、空は不吉に感じるほど厚い雲に覆われていた。
ランゼはロトスが与えてくれた真新しい服に袖を通し、真新しいブーツを履いて立っていた。ぴんと背筋を伸ばして、どこにも隙がないように。
そうやってランゼは待ち合わせに指定された場所でロトスとシーディを待った。彼らは、傭兵団だといった。この砦を本拠地として、依頼があれば兵を派遣する。ときには争いをききつけて、自らかけつけるのだとも。国軍の味方はしない、そうも云っていた。それが善か悪か、ランゼには判断できない。街に、家に、小屋の中に、閉じこめられていたランゼには、国に逆らうのならほかに何があるのかすらうまく理解できなかった。いま、外の世界でなにが起こっているのかも。
「悪い、待たせたか」
そう聞き覚えのある声に呼ばれてランゼはふり向いた。
左に胸当て、額にも額当てをしたロトスは、重そうな剣を背負っている。その半歩後ろに立つシーディは腰から細長い鞘の剣を下げ、月が明るい夜空のような、深い藍のマントをしていた。本の中でしか読んだことのない、戦士の姿にランゼはうっすらとした興奮を覚える。
「ああ、べつに」
応えるとロトスは呆れたように笑った。ふと、ランゼの足先から頭頂までに視線を滑らせる。
「まぁ、似合ってるな」
ランゼはその呟きには気づかないふりをした。今朝、鏡をのぞいたときには消沈した。血色の悪い肌、骨ばった膝が目立つだけのめりはりのない脚、頼りない腕。
ロトスは返事のないことには特に気をかけず、厩に行くぞ、と告げて先導した。そのためにランゼは、ロトスの後ろにいたシーディとまっすぐに瞳を合わせることになった。
「おはよう」
瞳が合うとシーディは瞳を細め、口角を上げた。おはよう、とランゼもなんとか言葉を返す。
はじめに抱いた印象よりも、このひとは笑うのだな、とランゼは思った。そうでなくても、他人から笑いかけられることとはほとんど無縁に過ごしてきたために違和感がある。
厩に着くと厩の管理者らしき初老の男から、二頭の馬が引き渡された。逞しく太い脚をした栗毛と、それには劣るがしなやかな筋肉を身につけた葦毛。どちらがどちらの馬なのかすぐに解って、ランゼは可笑しく思った。パートナーにすこし興奮気味に寄りつく馬の黒いつぶらな瞳が、ちらりとだけランゼを見る。
結局馬の体格を考えて、ランゼはロトスの馬に同乗することになった。
「落ちんなよ」
笑いを含ませた声で、ロトスは半分ふり返った。無骨な掌でランゼの手を摑んで、自らの腰に摑まらせる。
馬の動きはゆっくりしているけれど不安定で、ランゼをつい険しい表情にさせた。ランゼは思わずうん、と答えそうになりながら、言葉を選んで頷いた。
「……ああ」
強くいるためのぶっきらぼうな言葉を選んで、導かれた場所でぐっと手に力をこめる。緩やかな動きに沿って、大地のような、枯れ草のような、不快ではない彼の香気が伝わってきた。
ランゼはしばらくロトスとシーディが他愛もない会話をするのをなんとなく聞いていた。気候の話や食事の話、人の名前らしき言葉もいくつも聞き取れた。彼らの周りにはたくさんの出来事があふれているのだな、と別世界のことのように思った。
羨ましいような、手の届かぬような、はっきりしない気持ちとともに音を立てず長く息を吐く。自然と俯いていたのと振動で、とん、と額がロトスの背に触れた。
慌てて引き離し顔を上げるとちょうどこちらをふり返っていたシーディと瞳が合った。ランゼは自分から視線を逸らしたので、その表情はよく読み取れなかった。
「おい、ランゼ。寝るなよ、落ちるぞ」
ロトスがからかうようなおどけた声をあげる。
「……大丈夫だ」
「なぁ、ランゼ。お前、ずっとあの街で暮らしてきたのか」
おどけた色を消した、ごく真面目な声が広い背の向こうから届いた。
「そうだ」
ランゼは短く答えた。彼の背越しに、初めて外から見る、けれど確かに育ったその街が見えた。


その街中に近寄ると、焦げ臭い香気がした。
いまはもう意味を持たない、街に入るための門に掲げられた看板には『ディアス』という文字がはっきりと残っていた。
番人がいるはずのその下には、なにやら荷物を背負った初老の男が腰を下ろしていた。白髪の長い髪を下で一本に結わえている。垂れ下がった白い眉の下、灰褐色の瞳が優しさと訝しみを湛えて一行に向けられた。
「何用かな。この街には、なにも……残っていないぞ」
しゃがれた声が静かに響く。周りもとても静かで、ただすこし強く吹く風の音がやけに耳につくほどだった。
「そうか。それは気の毒にな。爺さんは、そんな処でなにしてる」
ロトスは眉を顰めて訊く。門の奥の光景は見るにも痛い。つい2日ほど前、燃え盛る緋い街だったものが、いまは焦げた黒いがらくたのようだ。
「なぁに、わしは医者をやっておってな。掛かりつけの子の回診に来てみたら…このさまだ。誰ひとりとしてこの街から逃げ出さない者はいなかったようじゃな。可哀想じゃろう。少しでも誰かの戻りを待ってやろうかと思ったんだが」
ふぅ、とその初老の医者はため息を吐いた。その瞳には哀しげな表情が宿っている。
「みたところおぬしらも街の者ではないな」
「ああ……俺らは傭兵団なんだ。いまは仕事じゃないけどな。この前この街の報を聞いてきたときは、もう遅かった」
「そうか。どうして戻ってきたのかは知らんが……きっとこの街には何も残っていないじゃろう。わしもそろそろ去るよ」
そう云って医者は重い腰を上げ、ぱんぱんと衣服の土を払い落とす。
ランゼはロトスの後ろから、その姿を眺めていた。
知っている声のような気がした。出逢ったことのある人なんて、数える程しかいないはずだった。薄い記憶を探ってみる。
じっと動かないランゼを気にして、シーディがランゼに顔を向けたときだった。
「ホウライ先生?」
ぱっと言葉が口をついて出た。途端に3対の瞳がランゼに集まった。
「知り合いか?」
ロトスが驚いた声を出す。すこし瞳を見開いて、そのあと眉を寄せた。
ランゼはその問いには答えなかった。灰褐色の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。
「悪いが、どこかでお逢いしたかの?」
細められた瞳の、静かにも射るような視線にランゼはどきりとした。
「兄が」
一言、声に出してから、ランゼは視線を泳がせて言葉を探した。向けられている3つの視線に手に汗が滲む。
「ニコダ家に来られていませんでしたか。兄が…ライナスが、貴方に診てもらっていなかったかと……」
云い終わってから、渇いた唇を噛んで、それからすこし湿らせた。
ホウライ、と呼ばれた初老の医者は瞼を押し上げ、まじまじとランゼの姿を見た。
「ああ、あの……君が、そうか」



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Date:2010/01/01
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Thema:自作小説(ファンタジー)
Janre:小説・文学

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