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黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か4

【第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か】
第4話

ホウライはゆったりとした動きで、よろよろと、という表現がぴったりにランゼに歩み寄った。
ランゼよりも前にいたロトスとシーディはすっと身を引く。そのとき視線をやると、ランゼが、見たことのないような、困ったようで、哀しいような表情をしていた。
ランゼの表情の意味も、この医者とのことも、彼らには皆無だった。この戦禍の世の中では、お互いの過去など掘り下げないものだ。だからロトスもシーディも、ランゼには深く訊くことをしていなかった。そのことが、後悔とも残念ともいえない感情が浮かび上がる。ふたりは仕方なく、目の前で起こることをただ眺めた。
ホウライはランゼの目の前で足を止めて、同じくらいの背丈のランゼを真っ直ぐ見た。
「無事じゃったんじゃな。……ご両親や、ライナスは」
ランゼは視線を下に落として首をふった。
「私は……一緒にいなかったので」
開いた唇を、一度引き結ぶ。微かに眉を寄せて、もう一度唇を開く。
「確かめに……探しに、来たのですが」
「そうだったか……では、彼らは」
ホウライはゆっくりとした動きで、左右のロトスとシーディを確かめるように見た。
「……命の恩人、です」
口に出してから、ランゼ自身はロトスとシーディの顔を見られなかった。素直に感謝を表すには度胸がない。
「そうだったか。それは」
ホウライは左右に向かって頷くように頭を下げた。ランゼはそれを見てすこし戸惑う。
「ま、たまたまだ。そいつの運がよかったんだよ」
ロトスが鼻の頭をこすって云う。シーディは静かに頷いたようだった。
「いやわしの患者に代わって、礼を云おう」
そう云って頷くホウライの言葉を遮るように、ランゼは問いを口にした。
「あの、家は」
家族のこと、兄のことを、彼らは知らないのだ。知られたくもなかった。余計な疑問が生まれる前に、生まれていたとしても詮索される前に、意識を逸らしたいという想いがランゼをそうさせた。
「ああ、ほとんど無事ではあるが……」
ホウライは言葉を濁して首をふった。誰もいない、そう、云っていたことを思い出す。それでもランゼは視線をあげてロトスとシーディを交互に見た。
「行っても、いいか」
ああ、とロトスは真面目な顔で頷いた。まっすぐな赤茶の双眸に胸のうちを見透かされそうで、ランゼはすぐに瞳を逸らした。そして表情を押し殺し、足を踏み出す。
一歩一歩を踏みしめるたび億劫になる。まだ真新しいブーツが土を踏むたび、じゃり、と音がするのが耳に残るほど、静かだった。
ところどころに崩れかけた家が、炭の山となった建物が沈黙に佇んでいる。やけに空が広く感じる。
ずっと――――16年余りずっと住み続けていた街であるはずなのに、すべてが目新しく感じられた。それは焼けてしまったからでもあり、最近の長い間は家を離れられなかった、そのためだ。
ただ幼い頃の微かな記憶と感覚だけで、家の在る場所へと足を向けていた。
ホウライがなにも云わないので間違ってはいないのだろうと思いながらも、この道筋は本当に合っているのだろうかと不安が渦巻く。それを、すべてを打ち明けるべきかとランゼは考えあぐねていた。
彼らは素性の知れない自分に対して、何も訊かないまま優しさを与えてくれる。それがどこかもどかしく感じられた。代償のない優しさなんて、慣れていない。
いつからか、なにか喜ばしいことを与えられるには代償が必要だった。兄以外には。
いまなにも望まれないのが、不思議であり不安だった。
彼らの気配を背中に感じながら、ふり向くことはせず、深く息を吸い込んだ。視線を上げて飛び込んできた景色に地面を引き摺っていた足が自然に止まった。
焼け焦げて木の屑になった、小屋。隣にそびえ立つ家は辛うじて、焼け焦げた跡を残しながらも真っ直ぐに建っている。
半ば呆然としながら、おぼつかない足取りでランゼはその家の扉に歩み寄った。
古びた木の扉、アンティークのような真鍮の取手。
その取手に震えだしそうな手をかけてみる。
がちゃ、とすこしだけ音が鳴り、硬い感触だけが掌に残る。
錠のかかった扉は開かない。
得られたのは失望にも哀しみにも似た感情だけで。
思わず扉を開けることのない取手をきつく握り締めた。
「窓、割るか?」
背中にロトスの声がかけられ、ランゼは力なく首をふることだけで答えた。きっと、彼らには情けない後姿に見えていることだろう。
街に戻って。家に戻って。扉を開けて、なにを望んでいたのだろう。
握り締める指に鈍い痛みを感じながら、自問する。
得られるのは、そこで見ていたつらさと痛みと、戻らない思い出だけのはずだ。
ランゼは取手を握り締めた手を離すと、扉に背を預けて空を見上げた。皮肉なほどの晴天。
なにをしているのだろう。もうすべて投げ出したいと思うほどに、情けなく感じた。与えられるだけの優しさに甘えて、わがままに巻き込んで、手に入れたのは喪失感だけだった。彼らにとっては、不可思議なことばかりに違いない。それなのに云い訳する勇気さえ生まれない。
いま立ち尽くすその先、どうすべきかもわからない。
「帰るか」
ロトスが、明朗な声を発した。その優しさが胸に響いて痛い。ランゼは頷くこともできずに、扉に背を預けたままでいた。真っ直ぐ前を見据えたら、きっと彼らの優しい瞳にぶつかるかと思うとそれもできない。
「ホウライ先生も、来てくれるだろ。俺らのところにはまだちゃんとした医者がいないんだ。怪我人が何人かいるし、一応診てやって欲しい」
そうロトスが口にして振り返ると、ホウライは解っていたようにゆっくりと頷いた。
「必要とされるところに行くことが、医者の務めだからの。構わんよ」
ランゼは、そう云ったホウライに思わず瞳を向けた。必要とされる、その言葉が、羨ましいと感じる自分に気がつく。そのうちにホウライと瞳が合った。
「ランゼ。わしも知った人間がいてくれたほうが気が楽じゃ。来てくれるな」
ホウライは皺の寄った顔をさらにくしゃっとさせる。ランゼはもうただ自然に、頷いた。胸の奥のしこりが解けるように、軽くなる。頷いて、楽になる。
「よし、帰るぞ」
ロトスがにかっと笑って、踵を返した。じり、と土を踏む音が後に続く。強い風が吹いて、ロトスの赤茶の癖毛が踊った。少し後ろの、シーディの夜空の色のマントと蒼銀の髪が舞うように靡く。ランゼにはなんだか、異世界のもののように感じて見えた。



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Date:2010/01/01
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Thema:自作小説(ファンタジー)
Janre:小説・文学

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