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第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か5

【第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か】
第5話

悪いけどあんまり部屋の外に出ないでくれるか。お前のことはあまり誰も知らないし、俺らの砦でも、男ばかりだからそれなりに物騒だろうからな。
そう、ロトスに云われたのでランゼは薄暗い部屋の中に閉じこもりっきりでいた。もちろんランプはあるし、薄暗いままである必要もないのだけれど、慣れているしなんとなく灯りはつけずにいる。
窓の桟に腕をのせて、生ぬるい風を浴びる。外は太陽の光も、朱みを帯びて夕暮れを教えていた。
ぼうっと外を眺めていると、目の前を大きな荷台を牽いた少年が通りかかった。背丈がランゼの胸くらいまで届くかどうか程の、銀色の髪をした少年。歳はたぶん十もいっていない。
少年はランゼに気がつくと、愛嬌ある藍色の瞳をぱっちりと開いて首をひねった。
「あれ、お姉ちゃん見に行かないの?」
可愛らしく微笑まれて、ランゼは驚いてすこし身を引きつつ聞き返した。
「…なにを?」
少年はさらに瞳を丸くして首を傾げる。
「知らないの?今日は2月に1回、ロトスさんとシーディさんが手合わせをする日だからさ。兵士のお兄ちゃんたちも、みーんな見に行ってるよ。いちばん強いふたりだから、いつもみんな大注目」
「そう、なんだ…」
ランゼが答えると少年は満足そうににっこりと笑った。
「お姉ちゃん、新しいひとなの? 僕、ここにパンを届けに来てる“はいたついん”だよ、よろしくね。じゃぁねー」
ぽんぽんと楽しそうに云い放ち、云い終わると少年はひらひらと手をふって、また荷台を牽いて去っていった。荷台の後ろ側には、『ヴィゴのパン屋』と書かれてある。
なんだか少年の元気さに圧倒されながら、少年の言葉を思い起こす。
「ロトスとシーディが手合わせ、か」
彼らは戦士なのだ、と思い出す。しかもこの軍隊の一番、二番の頂点のふたりだという。ただ純粋にふたりの姿を見たい、という想いが湧いて、ランゼは窓の桟をよじ登った。部屋を出るな、といったロトスの言葉が思い浮かんで、少しだけなら、と云い聞かせて草を踏んだ。


ざわざわと声が重なっていた。感嘆のため息もそれに混じる。
背の高い男たちの背中ばかりが覆って、ランゼにはその先を見ることはできなかった。
素直に残念な気持ちが湧いてきて、ランゼは足許に視線を落とした。
いくつもの低い声が、耳に届く。言葉は聞こえないけれど、いくつも。どこが違うかは解らないけれど、確かに違う声。耳を澄ませば、草を踏む音や、衣擦れや、金属のぶつかり合う音も聞こえてくる。
ランゼはゆっくりと息を吐いた。まだ、一昨日までの自分のみていたものの記憶や感覚が傍にあって、いま感じとれるものが嘘のように信じられない。
兵士たちが動き始めるのを感じて、ランゼは傍の木陰に身を潜めた。ロトスさん、シーディさん、といった言葉の断片が耳に届く。開けた視界の先に瞳をやると、見慣れた色が瞳に入った。
ロトスがシーディに詰め寄るような形で、なにか話しているようだった。シーディの方が少し、背丈がある。ロトスはなにかいいながら、身幅の大きなごつい剣に布を巻きつけている。シーディは地面に突き立てた薄く細い剣を手にした鞘にしまいこみながら、首を左右にふる。
遠くから見ると遠くの人に見える、ランゼはそう思った。踵を返そうとして、自分が戻るべき場所なのかと不安が起こる。例えばここで、戻らずに何処かへ行ってしまったらどうなるだろう、そんな思いがふと湧いた。戻らずにいようかとふと想いがよぎる。
そんな負の想いに囚われているうちに、明るい声が名を呼んだ。
「ランゼ」
呼ばれてランゼは反射的に顔をあげる。
声は、いつの間にか距離が近づいたロトスだった。その隣にシーディもいる。ふたりの手には、いまはしまわれた武器がある。
「あんまり出歩くなって、云ったのに…どうした?」
ロトスはやれやれといった感じで息を吐きながら笑い、どこか上機嫌にランゼを見下ろした。距離がさらに近づいて、その額に汗の雫が浮いているのをランゼは見止める。
「別に…」
パン屋の少年が、などというのはどこか面倒で、ランゼはぶっきらぼうに云い返す。
「なんだ、俺の勇姿を見に来た、っていってくれるのを期待してたんだがな」
ははっ、とロトスは歯を見せて笑う。その隣でシーディは小さく鼻で笑っていた。高く結わえた髪が、すこし乱れていくつかの筋が垂れている。
「どっちが…勝ったんだ?」
ランゼがそう訊くと、ロトスは大袈裟にシーディに冷ややかな視線を向けた。
「こいつが、手ぇ抜くからな」
それを受けて、シーディはぴくりと眉を顰めて唇を開いた。
「手ぇ抜いてるわけじゃない」
やりとりを見る限り、勝敗はロトスに軍配が上がっているようだった。ただロトスはそれが納得いかないらしい。シーディがわざと負けているのかも知れないようだった。
「つまんねぇな」
ロトスが悪態を吐いて、やはり大袈裟にため息を吐いてみせる。そしてにっと笑ってランゼをみた。
「そういうわけだから、まあ一応俺の勝ちだな。あんまりふらふらしすぎるなよ、安全は保障しないぜ」
そう云ってぽんとランゼの肩を叩いて、ロトスは手をひらひらと振った。シーディは特に声を出すこともなく、表情のない胡桃色の瞳を一瞬だけ向けて、前を向く。去っていこうとするふたつの背中をふり返って、ランゼは思わず声をだした。
「パン屋の男の子が、大注目だ、って云ってたんだ」
ロトスが驚いたようにふり向いて、おう、と笑った。





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Date:2010/01/01
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Thema:自作小説(ファンタジー)
Janre:小説・文学

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