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第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か6

【第一章 黒い瞳に映る世界は、果ての闇か救いの閃光(ひかり)か】
第6話

「あの子、どうする気なんだ?」
グラスの中の氷の塊をからからいわせながら、シーディはグラスを傾け透き通った褐色の液体を喉に流し込んだ。色白の喉で喉仏がゆっくり上下する。そしていつもの冷ややかな視線を左隣のロトスに向けた。
賑わいをみせる城の酒場の中、カウンターの隅でロトスとシーディは背中を並べていた。
ロトスは麦酒の入った大きなグラスを手の中で弄びながら、舌をのぞかせて下唇についた酒を味わってからおどけた声で云う。
「俺はもっと色気があるほうが好みだからなぁ」
「莫迦、冗談は厭きた」
「つれねぇな」
ふん、とロトスは鼻で笑って、シーディが冗談に乗ってくれないのは寂しいが、乗ってくれても気味が悪いな、と思う。もちろん、心の底からそんなくだらないことを考えているわけではないのだけれど。
「あの医者さんに連れて出てもらおうと思ってるよ」
ロトスはグラスを手の中で弄ぶまま、右隣に顔ごと視線を向けた。視線がぶつかるとシーディはおもむろに瞳をそむけ、自らのグラスの氷に視線を落とした。
「そうか、それが妥当だろうな。シーアさんにも、云ってないんだろ」
シーア、というのが彼ら傭兵団の長の名だ。
「ああ、云ってない。医者を手放すのは惜しいんだけどな…あの爺さんならあいつを引き取ってくれるだろう。あいつは家族を探したって、意味はないだろうからな」
ロトスは思い出す。あの小屋。左手の手錠。世紀の大悪党と呼ばれる男と同じ、『ランゼ』の名。
「あんまり、詮索は……したくないんだけどな。あのとき、ディアスの街に行ったとき。爺さん、あいつに逢うのは初めてだったんだろう。でも、知ってはいたみたいだな」
ああ、あの……君が、そうか。
驚きと哀れみを混ぜた表情で、ホウライが云ったのをシーディもよく覚えていた。
そして、彼の患者である兄に代わって礼を云う、そう云った。その言葉の先を制するようにして、ランゼは家の様子を尋ねていた。追求こそしなかったが、明らかな違和感だった。
「兄貴だけは、味方だったのかも知れない。その兄貴も妹がいることを、爺さんには話してたんだな。……けど」
シーディがきっと視線を持ち上げてロトスを見た。眉を寄せて、非難し制止を求める瞳だった。
ロトスはおとなしく口を噤む。シーディも想像したことは同じはずだった。だからこそ、軽々しく言葉に乗せてしまうことを拒んだ。声に出して現実味を帯びることを。
結局は、その兄だって彼女を助けなかったのだ。孤独な檻に、背を向けた。もしくは命を落とし助けられなかった。どちらにしろ縋る先はないはずだ。それならば家族を見つけ出して引き合わせても、虐げられる生活を繰り返すだけだろう。
おそろしい家族を求めるより、見知った協力的な者と、平和な暮らしを求めるのがいいに決まっている。
でも。
理性で、理論では解りきっていることだった。もうひとつ道がある、けれどそれは正しくないのは、一番でないのは解りきっている。それでも脳に湧いた本能的な感覚を、ロトスは声に出してみた。
「でも、あいつには、なにかある気がするんだよな」
シーディはすぐには答えず、空になったグラスの淵に下唇を押し当てた。ゆっくりと息を吐いて、グラスが曇る。氷に触れて唇を湿らせて、からんと音を立ててグラスを離す。なんだか見慣れたその一連の動作を、ロトスはなにというわけでなく眺めた。
シーディはあの少女の姿を思い浮かべていた。凛としたいでたちの、線の細い、少女。グラスの中で氷が急に崩れるような、不意に蝋燭の炎がよろめくような、時にはそんなイメージがよく合う危うさをのぞかせる。ロトスが人を見る眼があることをシーディはよく解っている。彼女の独特な雰囲気と存在感も感じていた。
絶対に必要だとは思わないのに、手放せば後悔する気がする。ロトスもシーディもその想いを共有しているはずだった。
「……あの子がここを離れることを選べば、それまで、だろ」
云い聞かせるようにシーディは声にした。それは自分にも、ロトスにも。
「そうだな、確かに」
ロトスは2,3度首を縦に揺らして、それから麦酒を呷った。よく日に焼けた喉がごくりと鳴る。
「もし」
空になったグラスの底を見据えてロトスは云った。
「残りたいといわれたらどうすべきだと思う?」
ここに身を置くことは、博打みたいなものだとロトスは思っている。目標とするものはとてつもなく大きくて、いま得られるものはかけがえのないものであることもあるが、そんなに大きくない。失うかもしれないものは数え切れないほどにあふれている。綱渡りのように、危うい道ばかりだ。
酒場の経営のために、ユイを呼んだことさえ後悔することがたまにある。3年ほど前、傭兵としてのあてない旅の最中に、シーディが所属していた自衛兵団に身を寄せていた時に知り合った。ロトスにとってもシーディにとっても気の合う落ち着く相手だからと呼んだけれど、俺たちが守ってやるから絶対に大丈夫、とは云えないことを、必ず守れる約束ではないことを自覚している。
「珍しく、弱気なんだな」
「手ぇ抜かれたから、ちょっと傷ついてるのかもな」
「まだその話…」
どちらともなく、はは、と小さく笑い声を立てた。
「ここにいて、命の保証を求めてるやつなんていないさ。みんな覚悟の上だろ」
シーディはそう云うと、酒場の忙しさも落ち着いて一息ついているユイを見つけて声をかけた。




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Date:2010/01/01
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Thema:自作小説(ファンタジー)
Janre:小説・文学

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